アメリカには、差別と戦ってきた長い長い歴史があります。アファーマティブ・アクション(積極対策)という言葉はご存じですか?差別を禁じるだけではマイノリティー(少数派)の地位はなかなか向上しません。一歩踏み込んで、大企業の雇用などで黒人等の社会的弱者を優遇して結果平等(機会平等の反対語で、競争の結果によって格差がつかない)を目指す政策のことです。学校教育も例外ではありません。ケンタッキーの公立校では50年も前から人種融合政策を進めてきたのですが、最近、問題が起きて、今後の方向性が微妙にゆらいでいます。皆さんには、どんな影響があるのでしょうか?
事の起こりは、1996年にルイビル(ジェファーソン・カウンティー)の教育委員会が、全ての公立校の黒人生徒の比率を15〜50%に調整するよう定めたことにあります。その後、2000年にはダウンタウンの人気高校に黒人生徒が入学できないと訴えがあり、一部で上限は撤廃されていましたが、2003年、今度は逆に、白人の奥さんが、自分の息子が非黒人の生徒数の上限にひっかかり近隣の公立校に通えないと違憲訴訟したのです。この裁判で、先月末に連邦最高裁の判決があり、奥さんの主張が認められました。
報道で知る限りでは、お子さんはまだ幼稚園生、自宅に近い2つの公立幼稚園を横目に見ながらバスを乗り継いで90分かけて通園しなければならないそうですから、実際、今回は、特別に運が悪い、気の毒なケースだったのでしょう。メキシコ移民の多いカリフォルニアでは、行き過ぎたアファーマティブ・アクションに反発する訴訟が頻発していると聞いたことがあります。
もともと人種融合政策には人種間の成績格差を是正するねらいがあり、レキシントン(フェイエット・カウンティー)でも、黒人が多い学校には、白人が多く住む新興住宅地を飛び地として学区に加え、極端な人種偏在が起きないように工夫してきました。ただし、レキシントンでは、マックスウェル小のスペイン語集中クラスを除いて、直接、人種比率を数字で管理しているのではありませんから、一般校の学区の区割りが問題になることはないしょう。
とはいえ、ブッシュ政権が選んだ保守的な判事が多数派を占める中、連邦最高裁が5対4の微妙な差で下した判決ですから、全米レベルで注目された事件でした。この判決を都合よく理解して保守的な地域住民が勢いづけば、長期的には学区別の人種偏在が進むことになるかもしれませんね。これまで、30年にわたってケンタッキーの人種融合政策を推進してきた教育関係者は、今から影響を心配しています。