秋の中間選挙…世論の流れは反現職・反既成勢力
右翼の草の根運動「ティーパーティー」が不気味
上院議員選挙 |
■民主2■民主■民主(新)■共和■共和(新)■選挙なし |
州知事選挙 |
■民主■民主(新)■共和■共和(新)■選挙なし |
早いもので、秋にはオバマ大統領が当選した2008年の選挙から2年…今年は中間選挙の年です。アメリカの国政選挙の日は11月の第一月曜日の翌日と決まっていて、州や地方自治体の選挙も同じ日に併せて実施されるのが普通です。
大統領の4年の任期が半分過ぎたところで行われる中間選挙では、2年任期の下院議員全員と6年任期の上院議員の1/3が改選されます。また、州知事の任期はどこでも4年と決まっていますが、中間選挙の年は全米50州のうち37州で改選がある知事選の集中年です。
下院の現有勢力は、民主党
256(58.8%):共和党 179(41.1%)…人口比で公平に分割された全米465の一人区で争われます。上院は各州2議席割り当てられていて、現在は、民主党
59:共和党
41ですが、今年は1/3の34議席に加え、バイデン副大統領とクリントン国務長官辞任後に暫定的に上院議員を定めているデラウェア州とニューヨーク州の特別選挙を合わせて36議席が争われます。
右の図は、秋に上院議員や州知事が改選される州の現職の党派を示していますが、(新)は現職が引退したり予備選で負けたため、本選挙には別の候補者が出る州です。
ところで、大統領選挙の年に、年初から各地で予備選挙や党大会が開かれて、民主・共和両党の大統領候補が絞り込まれていくのは日本でもよく知られていますが、上下両院議員や州知事の場合にも、予備選挙が行われているのはご存じでしたか?
今年も、5月から6月にかけて各州で両党の予備選が行われましたが、今年の世論の流れは反現職…各地の予備選で、現職の議員や知事が敗れたり、苦戦の末に辛うじて勝つケースが相次ぎました。長い不況で、既成政治勢力に対する反感が強くなっているようです。そして、中でも、とりわけ不気味なのが「ティーパーティー」と名乗る右翼的な草の根運動の影響です。
そもそも、草の根運動といえば、穏健なリベラルの市民運動と決まっていたものですが、ティーパーティーは過激な保守派による大衆運動です。2009年1月、オバマ大統領の就任に合わせるように、緊急経済安定化法に反対するトレーダー(証券社員)がブログに「議会にティーバッグを送ろう」と書いたのがはじまりで、アメリカの独立戦争のきっかけとなったボストン茶会事件(Boston
Tea Party)の故事にあやかった運動です。ボストン茶会事件は、植民地を支配するイギリスのお茶を海に投棄しアメリカ人の自由を主張する行為でしたが、今回のティーパーティーは、大企業を救済したりして国家財政を悪化させる「大きな政府」に対し反旗をひるがえそうと呼びかけました…ティー(TEA)は、「税金はもうたくさん(Taxed
Enough Already)」と掛け言葉です。
ティーパーティーは、政治家に「アメリカからの契約(Contract
from
America)」という10ヶ条に署名することを求めています。
@憲法の遵守(Protect
the Constitution)
…全ての新法について議会の立法権限の合憲性を説明すること。金融機関やGMの救済や医療保険改革法などは連邦議会の越権。
A排出権取引の拒否(Reject
Cap & Trade)
…商業ベースで温暖化を抑制すべきではない。
B連邦財政の均衡(Demand
a Balanced Budget)
…均衡予算を義務付ける憲法修正条項を設ける。
C根本的な税制改革(Enact
Fundamental Tax Reform)
…面倒な収支の分類をやめて、単純に一律税率で課税する。
D小さな政府(Restore
Fiscal Responsibility & Constitutionally Limited Government)
…アメリカ版事業仕分け。
E歯止めのない歳出の終了(End
Runaway Government Spending)
…歳出の伸び率を物価上昇率と人口増加率の合計以内に抑える法の制定。
F医療保険改革法撤回(Defund,
Repeal, & Replace Government-run Health Care)
…医療保険に加入しないのも自由。貧困は民間の善意で救済するもの。
G「何でもあり」のエネルギー政策(Pass
an ‘All-of-the-Above” Energy Policy)
…国産エネルギー資源の探査とエネルギー生産の規制を撤廃しアメリカが他国に依存しないエネルギー政策を進めること。
H「バラマキ」の停止(Stop
the Pork)
…議員たちが地元や関係業界にばらまいていた「ヒモ付き予算(Earmarks)」の廃止。
I増税の停止(Stop
the Tax Hikes)
…近年の増税の撤回。ブッシュ政権の諸税減免の恒久化。
1994年に、クリントン大統領(民主党)政権下の中間選挙で、共和党が「アメリカとの契約(Contract
with
America)」という文書を掲げて大勝した例があり、ティーパーティーの「アメリカからの契約」も、この故事を踏まえています。
「アメリカからの契約」10ヶ条に述べられているのは経済政策だけですが、現実のティーパーティー運動には各方面のあらゆる右翼的な人々が加わってきているようです。
ケンタッキー州では、共和党の現職上院議員が引退することに決まっているのですが、5月18日、ケンタッキー州の共和党上院議員予備選挙で、ティーパーティーの活動家で眼科医のランド・ポールが、共和党穏健派で州務長官のグレイソンに大勝しました。ランド・ポールは「民間ビジネスでは、人種や性別、身体障害に基づくものだろうと、オーナーにマイノリティ(少数派)の顧客をこばむ権利がある」と述べ、差別も個人の自由として容認されるとしています。
ケンタッキーは、前回の大統領選挙で共和党のマケイン候補が57.4%の得票率で勝ったくらいですから、基本的には共和党が有利だったのですが、過激なランド・ポールが共和党の候補となったことで、秋の選挙では、民主党のコンウェー候補が有利になってきたとの見方があります。
民主党のリードが上院の院内総務を務めるネバダ州は、共和党が党を挙げてリードの追い落としを画策している重点選挙区です。3月27日には、リードの地元で、ティーパーティー主催の政治集会が開かれ、前回の大統領選挙で共和党副大統領候補だったサラ・ペイリンも駆けつけました。
6月8日の共和党上院議員予備選挙では、ティーパーティー活動家のシャロン・アングルが当選しました。アングルは、社会保障の段階的廃止やアメリカの国連脱退を訴え、地球温暖化説は信じていないのだそうです。
(注)ショーダウンは、ポーカー用語で、手札を見せて勝負を決する瞬間のことです。
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