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2012年9月15日(第75号)


裏の選挙戦:投票に身分証明の提示を義務化

 選挙終盤でロムニーが決定的な「オウン・ゴール」

 アメリカ生活を存分に楽しむなら、たまには現地マスコミの報道を通じて、ナマのアメリカの日常に触れてみませんか。このコーナーでは、毎月、現地マスコミの動画ニュースの中から皆さんのご興味をひきそうな話題を選んで、日本語解説付きでごらんいただきます。


 乱射事件は続いています。この1ヶ月間にも、エンパイアステート・ビル(Empire State Building Shooting 2012)とニュージャージー州のスーパー(Employee shoots 2 dead at NJ supermarketで乱射事件がありましたが、どちらも私怨が動機で、部外者に重傷者がでなかっただけでもホッとします。

 アメリカの選挙の投票は、連邦から州・自治体レベルまで、毎年11月の第一火曜日(今年は11月6日)に一斉に実施されますから、新大統領を決める選挙戦も最終盤に入ってきました。


7月24日…裏の選挙戦:各州で投票に身分証明提示義務

9月10日…民主党大会後はオバマ優勢(選挙まで2ヶ月)

9月12日…ロムニーがリビアの領事館襲撃事件で政権批判

9月12日…オバマ反撃:ロムニーは「射った後でねらうタイプ」


7月24日…裏の選挙戦:各州で投票に身分証明提示義務

写真証明要写真証明ほか証明要証明不要

 前回の大統領選挙で、共和党のマケイン候補が、オバマ候補(当時)は左翼団体を通じて大規模な選挙権の不正登録をしたと非難したのを覚えておいでですか?

 その真偽はさておき、今度の選挙では、共和党が意趣返しのように、不正投票防止のため身分証明の提示を求める立法を各州で進めています。

 建前は不正投票の防止でも、巻き添えで投票しにくくなるのは、運転免許証を持っていない人々…若者や貧困層、年金生活者など民主党の支持層と考えられています。

 ペンシルバニア州は大統領選挙の帰趨を決めるスイングステート(激戦州)の一つですが、共和党の州議会下院議長が「これでロムニーの勝ちは決まりだ(Rep. Mike Turzai Says Voter ID Law Will Make Romney Win Pennsylvania)」と本音を述べています。テキサス州では、州政府発行の証明なら銃の許可証でも有効ですが、写真付きでも学生証ならダメ

 アメリカでは、南部で黒人の選挙権を実質的に制限してきた暗い歴史があり、憲法上も、選挙権は人種や性・年齢により差別されないことになっています。民主党支持層にも、一定の身分確認は必要と考える人は多いのですが、テキサス州のように過度で、黒人やヒスパニックに差別的として連邦司法省に否認されるケースも出ています。


9月10日…民主党大会後はオバマ優勢(選挙まで2ヶ月)

 共和党大会は8月27〜30日にフロリダ州タンパで開かれました。直後には42歳の保守派ポール・ライアンを副大統領候補にしたロムニー候補が、支持率でオバマ大統領と並びましたが、9月3〜6日の民主党大会後はオバマがリードを回復、今のところは選挙戦を有利に進めています。

 ロムニーは、オバマが「チェンジ、チェンジといって何も変わっていない」と訴えましたが、クリントン元大統領の「いかなる大統領も前政権がもたらしたダメージを4年間で回復することはできない」という演説が、特に多くの人の気持ちを動かしたようです。クリントンは、不倫事件で退陣の瀬戸際に追い込まれたこともありますが、1990年代の好況を支えた大統領として今でも多くのアメリカ人に愛されています。

 アメリカの大統領選挙では、次期ファーストレディとなる夫人の対決も重要な要素ですが、ミッシェル・オバマ夫人Michelle Obama DNC Speech Highlightsの演説は涙を流して聞き入る人もいるほど(難しい英単語がよく分からなくても?なぜか)感動的です。一方、アン・ロムニー夫人Ann Romney RNC Speech Top Moments)の演説は、庶民的に話そうとして逆にお嬢さんが仲間うちの会話しているような口調。私は聞いているとムズムズしますが、皆さんはいかがですか?


9月12日…ロムニーがリビアの領事館襲撃事件で政権批判

 日本でも報道されていますが、同時多発テロ11周年の9月11日夜にリビアのアメリカ領事館が武装集団に襲撃され、大使と館員3名が亡くなりました。昼には、イスラム教を冒涜する映画に抗議する群集がエジプトの大使館に押しかけ、星条旗を引きちぎって燃やしました。武装集団の襲撃と群集のデモは別々に起きたのか、背後に共通の黒幕がいるのかは、まだ分かっていません。

 さて、そこで、大統領選挙との関連です。ロムニー候補が、領事館襲撃の第一報を聞くやいなや、タイミングの悪い緊急会見を開き、身内の共和党陣営からため息がもれるほどの大失態をしでかしてしまいました。

 会見の内容は、要約すると「相手を非難する前に、こちらから謝ったのはけしからん」とオバマ政権を批判するものでしたが、それはロムニーの早とちりで、アメリカ政府が映画の件について謝罪した事実はありませんでした。

 カイロのアメリカ大使館は、この日デモが起きる前に、同時多発テロの追悼声明の中で「イスラム教徒を侮辱する人々を非難する」と述べていました。ロムニーは、これをデモの群集への謝罪の言葉と勘違いしたようです。

 それどころか、大使館の人々は実に勇敢で、群集に襲撃されている最中も、ツイッターに「アメリカは言論の自由を守る(皆さんの要求に応じて映画制作者を処罰することはできない)」と書き込み、館内に立てこもっていました。

 殺された駐リビア大使は、まだ暫定政府と旧カダフィ政権が戦闘が続いている危険な時期から、アメリカを代表して民主的なリビアの建設に尽力してきた惜しまれる人物です。献身的な外交官が殉職した悲劇を、ここぞとばかりに選挙戦に活用しようとしたロムニーの下心は誰の目にもバレバレで、これは今回の大統領選挙で決定的な「オウン・ゴール」となるかもしれません。

 大使と懇意だった共和党前大統領候補のマケイン上院議員は、事件後に、大使の遺志を次いでリビアやエジプトへの支援を続けよう(Sen. McCain Remembers Amb. Chris Stevens, Says the US Must Continue to Support Libya, Egypt)と言っていますが、共和党の中には報復のために資金援助を打ち切るべきと主張する人々もいて、この調子では、党内の外交政策論争にも火がつきかねない情勢です。


9月12日…オバマ反撃:ロムニーは「射った後でねらうタイプ」

 ロムニー候補の派手なパーフォーマンスに、オバマ政権は淡々と反応しました。ヒラリー・クリントン国務長官も、オバマ大統領も、事態が明らかになってから、慎重に言葉を選び非難と追悼の声明を出しました。ロムニーの政権批判については、完全に無視。

 でも、一言だけオバマの皮肉を聞く機会がありました。CBSの報道番組の中で、状況を把握せずに緊急会見をしたロムニーのことを「シュート・ファースト、エイム・レーター(射ってしまってから、ねらいを定める)の傾向があるんじゃないの」。

 そんな調子では大統領職は勤まらないそうです。インタビュアーに「ロムニーは無責任ですか?」と聞かれて、「それは皆さんが決めるでしょう」…余裕の回答でした。