海外赴任、留学、国際結婚…北米に住む日本人の皆さんのアメリカ生活をゆたかにするメールマガジンです。四季折々のタイムリーな話題や各地のお買物や観光の情報をお届けします。検索ボタンで姉妹サイト「アメリカ生活・e-百科」のワード検索も一緒にできます。

発行者: KJBusiness Consulting, LLC  電話:(859) 223-6449 Eメール:info@jlifeus.com  HP:www.jlifeus.com

2014年2月15日(第92号)


性犯罪特集A 高校でも起きる強姦事件

 メアリビル高事件とスチューベンビル高事件

 性的虐待事件は、高校でも起きています。大学の場合より犯人の処分が問題になるのは、加害者も未成年で日頃は「チョイ悪」程度の少年が多いからです。基本は、加害者(と時には被害者)を放任した親や周囲の責任が問われるべきでしょう。


メアリービル高事件(ミズーリ州)


 2012年にミズーリ州とオハイオ州の高校でそれぞれの花形フットボール選手が起こした強姦事件は、どうみても悪ふざけの度を越す凶悪犯罪でした。日本ほど未成年に甘くないアメリカで、世論はどのように反応したのか検証してみましょう。

 ミズーリ州とオハイオ州では性的同意年齢や強姦罪の定義も違うので、州法の差がそれぞれの加害者の処分にも影響を与えた点を考慮する必要があります。

===== 初めてのアルコール =====

 メアリービルは、ミズーリ州の北西角に近いアメリカン・フットボールに町中が熱狂する人口1万2千人の田舎町です。日本企業も進出しています。デイジー・コールマンは高1で14歳のチアリーダー。9歳の時に事故で父親を失い、コールマン一家は、心機一転、古風で趣のあるこの町に癒しを求めて引越してきました。

 事件が起きた2012年1月8日の夜、デイジーは13歳の女友達を自宅に「お泊り」に呼び、ホラー映画を見ながら初めてのアルコールを口にしました。周りの子も、もう誰でも飲んでいるからです。携帯で憧れの高校4年生の先輩マシューにメールすると「これからハングアウトしよう(遊ぼう)」と返事がきました。マシューは、アメフトでチームメイトの兄さんから「気をつけろ」と言われていた相手です。

ABCニュース解説番組 20/20 @ A

 ===== 被害者を厳寒の自宅前に放置 =====

 マシューの迎えの車で二人はこっそり家を抜け出し、地下室の窓からマシュー家に忍び入ります。ほかに高3と高4の先輩が3人待っていました。そこで大量のウォッカを短時間に飲み、デイジーにはその後の記憶がありません。しかし、13歳の女友達によれば、二人は別々の部屋に連れ込まれて性的虐待を受けたということです。

 デイジーは、それでもグッタリしたままでした。マシューと仲間は泣きわめくデイジーを車に乗せて自宅に連れ帰りますが、屋内には入れられず庭に寝かして立ち去ります。朝5時に犬の吠え声で家人が気づくまで、薄着で裸足のデイジーは、気温零下5℃の厳寒の庭に3時間も放置されたのです。

===== 最初の検察方針は「不起訴」 =====

 マシューらは、合意の上の性行為だったと主張しました。ミズーリ州法で性的合意年齢は17歳ですが、無条件な強姦罪は14歳未満でなければ適用されません。警察は強姦罪で書類送検しましたが、検察は不起訴と結論します。マシューの祖父は、ミズーリ州議会の元下院議員でした。

 それどころかデイジーとコールマン一家には、嫌がらせのメールが届くようになります。傷ついたコールマン家は40マイル東の別の町に引越しますが、売家に出した家も不審火により焼失しました。デイジーは、うつ病に陥り、自殺未遂と入退院を繰り返します。

===== 見直し後も強姦は証拠不十分 =====

 しかし、やがて事件は全米に報道され検察の再検討を求める声が高くなります。そして、事件からちょうど2年経った今年の1月9日、あらためて検察の最終結論が下されました。強姦については証拠不十分、ただしデイジーを放置して生命の危険にさらした点で微罪を認めるというものです。

 アメリカには、犯罪に重罪(Felony)と微罪(Misdemeanor)の区別があり、州によって違いがありますが、一般に微罪の場合は最高刑でも懲役1年です。マシューのケースでは、2年間の保護観察と100日間の社会奉仕、1800ドルの罰金と被害者への謝罪が命じられました。

 もう一つ間違っていたらデイジーは凍死していたかもしれないのに、あきれるほど軽い刑罰です。しかし、コールマン一家はもう罪の軽重を争わず、デイジーの社会復帰を支えていくつもりです。


スチューベンビル高事件(オハイオ州)


 スチューベンビルは、ペンシルバニア州ピッツバーグから真西に約50q、橋を渡ってオハイオ川を越えた西岸(ややこしいことに対岸はウェストバージニア州)にあります。50年代に活躍した歌手でコメディアンのディーン・マーチンを輩出した工業都市でしたが、鉄鋼業が衰退してからは貧困化し、今では犯罪も多発するようになっています。

ABCニュース解説番組 20/20 2014年1月 2013年3月(@ A B C D)

===== 夏休みの打ち上げパーティ =====

 そのスチューベンビルで、唯一の光明があるとすれば高校フットボールです。人口1万8千人に対し1万人収容のスタジアムがあるほどで、市民のフットボール熱はメアリービルとも比較になりません。スチューベンビル高が得点するたびに、マスコットのウマの像が、口から2mの火を噴きます。

 2012年、夏休みも終盤の8月11日に、高校フットボールのオープン戦がありました。ナイトゲームで、高2でクォーターバックの少年Aと相方で同じく高2でワイドレシーバーの少年Bが大活躍しました。まるで、10回目の州優勝を約束するような大勝利です。

 勝利の余韻も冷めぬうち、トレントの携帯にネット友達からパーティにお誘いのメッセージが入りました。対岸のウェストバージニア州ウィアトンの女の子です。少年AとBが行くと、家の前の路上には車があふれ、40〜50名の十代の若者が大人抜き、アルコール飲み放題で騒いでいました。

===== 二次会・三次会・ネット投稿 =====

 パーティは、午前零時過ぎにようやくお開きとなります。後に「強姦被害者」となった少女は、その後の出来事を全く覚えていないそうです。友だちの制止を聞かずに、全員がスチューベンビル高フットボール選手の少年4人(A〜D)の車に同乗しました。

 二次会は、もっと少人数でした。少女は、ここで気分が悪くなりバスルームに連れて行かれて吐きました。少年AとBがそれぞれ両手首と両足首をつかみ、少女をぶら下げるようにして運びます。この時の様子を、少女の元カレの少年Cが写真に撮り、ネットに投稿したのが全米を巻き込む大騒ぎの始まりです。

 少女は再び車に乗せられ少年Dの家に向かいましたが、少女は途中でまた吐いて、汚れたブラウスを脱いだようです。車中で少年Aが被害者の胸や局部をいじり始めます。そして、次の家でも少女の嘔吐は止みません。今度は少年Aばかりでなく、少年Bも加わって少女をおもちゃにしました。ただし、性交だけはしていません。

 その間に、スチューベンビルの少年たちのツイッターでは、少女の裸の写真が回覧され井戸端会議が盛り上がっていました。中でも、18歳の元野球部員が、少女をあざけって大笑いする自分自身を12分間写した動画は、未成年者の残忍性をあからさまに見せていて醜悪です。

===== 花形選手の逮捕 =====

 翌朝、駆けつけた少女の友人は、少女と少年Aが何もなかったように並んでソファにもたれているのを目にしました。それだけを根拠にすれば、少女に同意があったとする少年たちの弁明にも一理あったでしょう。しかし、事件の詳細な情報や写真が15台の携帯を通じてネットで配信され、既にスチューベンビルやウィアトンのクチコミで広がっていました。

 信じがたいことに、少女や少女の両親が事実を知ったのもネットや口コミ経由で、証拠を集め警察に届けることができたのは、既にまる2日経った14日未明でした。警察は物証に欠けることを理由に捜査に消極的でしたが、何とか重い腰を上げ20日にトレントとマリクが逮捕されます。

===== コミュニティ vs. 犯罪専門ブロガー =====

 実のところ、この種の乱行事件は今に始まったことではないようです。今回の事件の特殊性は、誰もがスマホやアイポッドを持つ時代になり、少年たちが仲間の「凶悪犯罪」を面白がってネットで公開してしまったことです。それがなければ、いつものようにコミュニティの「事件もみ消しシステム」が機能していたのかもしれません。

 しかし、二人と行動をともにしていた他のプレーヤーまで逮捕されては、コミュニティの大事なフットボールチームが散々です。そこで、捜査協力を拒否する者や虚偽の証言をする者が続出しました。少女は被害者のはずが、神聖なフットボールチームを汚した罪で村八分にされ、ついに不登校になってしまいます。

 そこへ助け舟を出したのは、以前スチューベンビルに住んでいたことがある犯罪専門ブロガーでした。ブロガーは、少年たちが不利なネット情報を消し去る前に丹念に情報を拾い集め、パーティ参加者やそれぞれの役割をブログ上で明らかにします。ネットでは、コミュニティを非難する世論が巻き起こりました。少年たちの親の中にはブロガーを名誉棄損で訴える者が出てきます。結果は、ブロガーの優勢勝ち。

 12月にニューヨークタイムズが事件を報道してからは、全米の世論を二分する加害者と被害者の代理戦争が始まりました。

 ハッカーが事件関係者のIT機器に侵入し、隠ぺいされた画像や動画を公開しました。裁判所前で、コミュニティを非難する女性の人権擁護団体が、ハッカー集団アノニマスとともに気炎を上げる姿が、TVニュースで伝えられるようになりました。

===== 少年たちの処罰 =====

 オハイオ州法では、性交に至らない性行為でも強姦罪が成立します。強姦罪は重罪で刑期は長く、その後も性犯罪者に登録され、生涯、居住地が一般公開される辱めを受けることになります。

 しかし、未成年を理由に減刑し、2013年3月にオハイオ家裁(若年者裁判所)は、少年Bに1年間、未成年の少女の写真を撮った少年Aには幼児ポルノの罪を加え計2年間、少年院で更生するよう命じました(少年Bは模範囚として刑期を短縮され、この1月に出所しています)。

 性犯罪者登録の最終判断は21歳で成年に達する時点まで先送りされ、一部のチームメイトは検察側の証言者となることで訴追を免れました。

 CNNの女性レポーターは嗚咽する若い二人の被告の姿に情緒的になり、同情的なコメントをして非難されました。複数局のニュースで、被害者の少女の名前が流れる放送事故がありました。

===== コミュニティ指導者の処罰 =====

 フットボールチームを甘やかし、過去の乱行をもみ消してきたコミュニティの大人の中にも、起訴されて判決を待つ身の人々がいます。

 スチューベンビル市のIT責任者は、証拠の改ざん、司法妨害、捜査妨害、偽証の4つの罪で起訴され、最高4年の刑が科されるかも知れません。スチューベンビル市の教育委員長は、別件で同じ年の4月に起きた野球部員の強姦事件をもみ消していたことが明らかになり、最高5年の刑が科される可能性があります。この事件の被害者は14歳でした。

 ほかに3名の大人が微罪で起訴されましたが、肝心のフットボールチームの監督にまでは嫌疑が及びませんでした。少年Aと監督のメールのやり取りには、監督が事件のもみ消しを暗黙に約束する言葉が含まれており、被害者の少女が最も罰してほしいと願っていた人物です。

===== ハッカーの処罰 =====

 ハッカーの中にも、コンピューター不正アクセスの容疑でFBI のSWAT部隊に検挙された人がいます。証拠隠滅前にIT機器を押収するために、完全武装で奇襲したのでしょうか?ハッカー集団アノニマスは、ウィキリークスや元CIA職員のスノーデン容疑者のように各国政府の情報独占に抵抗し、違法に得た機密情報を公開することをいとわない、いわば「情報の自由」過激派です。

 アノニマス(Anonymous)の名の起源は、日本のネット文化に刺激されて生まれた英語の画像掲示板「4チャン」で「名無しさん」として使われたハンドルネーム。この集団の存在は、アラブの春でエジプト政府の情報を盗んだりして有名になりましたが、今回の事件のようにアノニマスの攻撃対象にされると、隠し持っていた情報が暴露され(当局寄りの)不正義を正すネット世論が誘導されます。

 アノニマスは、公共の場でガイ・フォークスという仮面をつけて活動します。仮面は不気味ですが、ネットでつながる緩やかな組織で、大半は違法活動をしない良心的な人々なのかもしれません。逮捕されたハッカーの最高刑は懲役10年ですが、正義の味方が強姦犯よりも重罰を受けるのはおかしいという擁護の声も上がっています。