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2015年2月15日(第104号)


2月の第3月曜日は大統領の日(プレジデンツデー)

 リンカーン家の転居歴に学ぶアメリカ開拓史

 2月の第3月曜日(今年は2月17日)は歴代大統領の功績を讃える大統領の日(プレジデンツデー)…初代大統領ワシントンの誕生日2月22日と、南北戦争を終わらせた第16代大統領リンカーンの誕生日2月12日の中をとって定めたというのが通説ですが、連邦政府の正式呼称は実はワシントン誕生日…当時使っていたユリウス暦だと2月11日でした。

 州により対象大統領も、全ての歴代大統領、ワシントンとリンカーン、ワシントンだけ(リンカーン誕生日を別に祝う州も含む)、ワシントンと(リンカーンの代わりに)第3代ジェファーソン大統領とマチマチで、スペルにも"Presidents "、"President’s"、"Presidents’" の3種類があります。これも、南北戦争に勝った北部と負けた南部で、リンカーン大統領への親愛度に差があるからです。

 毎年、プレジデンツデーに合わせ、歴代大統領の人気ランキングを調べて発表するマスコミがありますが、次は2014年のexaminer.comによるランキング。

Mt. Rushmore

  1. Abraham Lincoln

  2. George Washington

  3. Franklin D. Roosevelt

  4. Theodore Roosevelt

  5. Harry S. Truman

  6. Ronald Reagan

  7. James K Polk

  8. Andrew Jackson

  9. Dwight Eisenhower

10. Thomas Jefferson

 トップはリンカーン大統領で、ラッシュモア山に胸像を刻まれた4人の大統領がトップ10入りしていれば、かなり平均的なランキングです。


リンカーン家の移民一世


 今回は、そのリンカーン大統領とご先祖の転居の歴史から、アメリカの初期の開拓史を学んでみましょう。

リンカーン家の転居歴 (⇒拡大)

 リンカーン大統領の先祖をたどると、移民1世はサミュエルで1622年にイングランドのヒンガムで誕生しました。15歳の年に兄を頼って渡航し、マサチューセッツ植民地のヒンガムにやってきます。メイフラワー号が漂着してマサチューセッツ植民地が切り開かれたのが1620年ですから、その17年後でした。

 長男の家系の5代目は、ジェファーソン大統領の初代司法長官を務め、後にマサチューセッツ州知事の死により副知事から知事代行に昇格したリーバイSr.、その長男リーバイJr.は第13代マサチューセッツ知事、四男イノックは第6代メーン州知事となりました。


5代目がケンタッキーに移住


 リンカーン大統領は、三男モーディカイの家系の7代目。3代目のモーディカイがニュージャージーを経て、ペンシルバニアに移住。ニュージャージーで生まれペンシルバニアで育った4代目のジョンは、バージニアのシェナンドーア渓谷に移住。そこで、1744年にリンカーン大統領の祖父で5代目のアブラハムが生まれました独立戦争(1775~83)では、バージニア民兵の大尉を務めま

 その頃のケンタッキーは、まだインディアンの狩猟地でした。チェロキー族長老の許しを頼りに入植した開拓者の多くは、度重なるショーニー族らオハイオのインディアンの襲撃に耐えかねて離散して行きましたが、残る200人はバージニア植民地に助けを求め、1776年にバージニアのカウンティとして13植民地の一角に加わり、戦いました。

 アブラハムがケンタッキーに移住し、ルイビル東方20マイル(32km)のヒューズ駐屯地付近でトウモロコシ栽培を始めたのは、西部戦線でまだ激しい戦いが続いている1781年のことでした。インディアンの脅威は戦後も去らず、1786年にアブラハムは、3人の息子と農作業中にインディアンに襲われ死んでしまいます。長男で15歳のモーディカイは、次男を駐屯地に走らせ、自分は家に取って返して銃を持ち帰り、インディアンを射殺。父の遺体のそばにたたずむ8歳の三男トーマスを救ったと伝えられています。


リンカーンゆかりの地州立公園(ケンタッキー)


 2年後に、アブラハムの妻は子供たちを連れルイビル南東60マイル(96km)のスプリングフィールドに転居しました。この集落で、1806年にリンカーンの父トーマスと母ナンシーが挙式しました。今も、リンカーンゆかりの地州立公園(Lincoln Homestead State Park)では、毎年、再現劇が上演されています。


リンカーン生誕地国立歴史公園(ケンタッキー)


 当時は長男が親の資産を相続するのが当たり前で、三男坊のトーマスは独立し既に家を出ていました。リンカーン大統領は、1809年にトーマスが2つめに買った農場で生まれます。現在のリンカーン生誕地国立歴史公園(地図@)です。生家の丸木小屋は、今はギリシャ神殿風の建物に納められ、そのみすぼらしさに全米から訪れる観光客の涙を誘っていますが、開拓地の若い夫婦には分相応のスイートホームだったに違いありません。


リンカーン少年時代国立歴史公園(インディアナ)


 リンカーン大統領に生家の記憶はありません。トーマスは、1811年に再び近所に転居(地図A…リンカーン2~7歳)したのです。しかし、登記の不備で土地を失うトラブルが重なり、1816年にはさらなる新天地を求めインディアナに移住します。

 現在のリンカーン少年時代国立歴史公園(地図B…リンカーン7~21歳)です。この頃、北西インディアン戦争(1785~95)でオハイオの大半は合衆国領となり入植が進んでいましたが、インディアナはテカムセ戦争(1811~13)が終わったばかりで、南部のオハイオ川沿いの地域以外はまだインディアンの土地でした。

 長男のリンカーン大統領は、父とともに荒地を開墾しました。ここで、母のナンシーが、1818年に毒草を食べたウシのミルクを飲んで亡くなります。開拓地の生活は夫婦が一組で働かなければ支えられません。トーマスは未亡人のサラと翌年に再婚しました。


リンカーン・ニューセイラム州立史跡(イリノイ)


 しかし、トーマスの転居癖は収まりません。1830年には中部イリノイのディケーター付近に移住(地図C…リンカーン21~22歳)。無学の父と折合いの悪かったリンカーン大統領は、1年でこの家を出て、イリノイ川の支流を下りニューセイラムの町(地図D…リンカーン22~28歳)で一人暮らしを始めます。

 トーマスは、その後もう一度転居して、1851年に亡くなるまでディケーター南東のコールズ郡(地図D父)で暮らしました。

 ニューセイラム時代に、リンカーン大統領は、ブラックホーク戦争(1832年)というインディアン戦争に参加しています。イリノイ川の西は、合衆国が1804年にインディアンから購入したことになっていましたが、不満を抱くソーク族やフォックス族が反旗を翻したものです。1830年にインディアン移住法が制定され、1835年にかけてチェロキー族ら南部の5部族がオクラホマに強制移住させられた「涙の旅路」という事件が知られていますが、ソーク族やフォックス族もブラックホーク戦争の戦後に、カンザスに強制移住させられています。 リンカーン大統領は、ニューセイラムでビジネス経験を積み、信用を得て州議会議員に当選する一方で、弁護士を目指して勉学を重ねていました。


リンカーンの家国立史跡(スプリングフィールド…イリノイ)


 1837年にリンカーン大統領は、(人口は2500人ほどでしたが)イリノイの州都スプリングフィールド(地図E…リンカーン28~51歳)に出て、初めて辺境の丸木小屋生活に別れを告げました。すぐに弁護士として頭角を現し、1846年には連邦下院議員に選出され、国政に進出します。

 リンカーンの家国立史跡は、1844年に同僚の弁護士のいとこでケンタッキー州レキシントン出身のメアリーと結婚して購入した住居です。当初は6部屋の半二階でしたが、1855~56年に12部屋の二階屋に増築されました。


ホワイトハウス(ワシントンDC)


 リンカーン大統領最後の家は、もちろんホワイトハウス(リンカーン51~56歳)でした。南北戦争(1861~65年)は、1860年に奴隷反対を唱える大統領が当選すると同時に始まったようなものです。翌年3月の就任に先立って南部諸州の南部連合国が設立され、戦端は4月に開かれました。

 粗末な家で育った大統領は、戦費がかさむ中、ホワイトハウスの改装に消極的でしたが、今やファーストレディとなった妻のメアリーが国際的に恥ずかしくないホワイトハウスの改装に情熱を注いだそうです。

 1865年4月14日、南軍の猛将リー将軍が降伏し北軍の勝利が確実になった4日後に、リンカーン大統領はフォード劇場で至近距離から銃撃され落命しました。

 リンカーン大統領はイリノイ州スプリングフィールドのお墓に眠っています。