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2015年3月15日(第105号)

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オクラホマ…黒人差別ソングを歌った首謀者2名が除籍処分

   大学社交クラブ(フラタニティ)の入会は慎重に

 北米の大学にフラタナティ(Fraternity)と呼ばれる男子学生の社交クラブがあるのはご存じですか?多くは入寮制で、ソロリティと呼ばれる女子学生社交クラブもあります。ピンからキリまであり、キリの方は酒を飲み女子を口説いて学生生活をエンジョイする悪ふざけの会と化しているようです。

 ピンの方は、学生が互いに切磋琢磨し、卒業後も社会的エリートとなって助け合う、いいとこだらけの組織のはずですが、一般に秘密主義的で、これまでも新入生へのしごきが表沙汰になり問題視されることがありました。


リンチ(私刑)をそそのかす歌詞


 今回のニュースの渦中にあるSAE(正式にはΣAE…シグマ・アルファ・エプシロン)は、全米でも最大のエリート・フラタナティの一つです。事件を起こしたのは、そのオクラホマ大学支部。7日(土)はSAEの創立記念日で、パーティ会場に向かうバスの中で、メンバーらが腕を突き上げ、手拍子を取り、黒人差別ソングを歌い大騒ぎしている光景が、スマホで撮影されていました。

Bloody Sunday, Selma, AL, 3. 7. 1965

 翌8日(日)に、この動画が匿名で大学新聞に寄せられ、次いでYouTubeに一般公開されました。その数時間後にはキャンパスで抗議デモが始まります。大学とSAE本部は、即日、オクラホマ支部の閉鎖を決め、首謀者の二人は除籍処分となりました。

 4日(水)には、昨年8月に白人警官が黒人を射殺して暴動が起きたミズーリ州のファーガソンで、白人警官2名が銃撃される事件があったばかり。7日(土)は、アラバマ州で公民権運動のデモ隊が州警察に催涙ガスや警棒で鎮圧された「血の日曜日事件」から50周年で、オバマ大統領が人種間の和解をうながす演説をした特別な日でした。

問題の歌の歌詞は

Lynching, Marion, IN, 1930

“There will never be a nxxxxx in SAE.

There will never be a nxxxxx in SAE.
You can hang him from a tree, but he can never sign with me
There will never be a nxxxxx in SAE.”

 アメリカのマスコミは差別用語を伏字にしていますが、"nxxxxx"はニガー…日本語にも、昔は、クロンボという差別用語が存在しました。三度繰り返されるフレーズは「クロンボはSAEに加われない」、三行目のフレーズは「(クロンボは)木に吊るせよ、俺は仲間に入れないぜ」と訳せるでしょうか。

 木に吊るすというのは、リンチによる処刑を意味しています。アメリカでは1960年代に至るまで、白人の民衆や黒人排斥団体が疑わしい黒人を捕え、公式の裁判を経ずに処刑してしまう事件が日常的に頻発していました。特に南部では、1877~1950年に約4千人の黒人がリンチにより殺されたそうです。

 たった9秒の動画でしたが、伏字なしのナマの歌を聞いてみると、白人至上主義者のシュプレヒコールにしか聞こえないほどひどいものです。SAEの寮は閉鎖され、巻き添えで従業員は失業してしまいましたが、気の毒な黒人のコックさんには、人々の募金が集まりました。

 寮母さんは、マスコミのインタビューに、最初は「これまで、あんな歌は聞いたことがない」と答えていたのですが、その直後に、本人がパーティで差別用語をまくし立てている姿がYouTube上に公開され、今や共犯者に仲間入りです。

 氏名が公表されたので、除籍された二人の実家には、脅迫電話がかかり、抗議のデモ隊が押しかける騒ぎに発展しました。それぞれに本人と両親が謝罪声明を出していますが、二人は差別主義者ではなく、問題の歌は先輩から教わったとしています。

 SAE本部は、問題の歌が組織的に引き継がれてきた事実を否定していますが、テキサス大学は、3行目が "Abe set 'em free but they'll never pledge with me"…リンカーンが(クロンボを)解放しても、俺は仲間に入れないぜと、ほとんど変わらない歌詞の歌が見つかったと発表しています。


事件の本質


 この事件には、人種差別の問題とフラタニティの問題が混在していて、アメリカのマスコミも本音のところは口ごもっているように思います。ですから、ここからは私個人の憶測を交えてお伝えします。

 どの国でも共通のようで、子供が社会に出て大人の仲間入りをする際に「チョイ悪」には目をつぶり、仲間と協調するよう慣らされます。その踏絵の一つが、SAEに伝わる黒人差別ソングだったのかもしれないし、それなら日本の学生が一気飲みやワイ歌を歌って大騒ぎするのと、大差ない話です。アメリカ人の中には、表立っては非難しても、影では除籍された二人に同情する人々もいることでしょう。

 今や南部でも、黒人スポーツ選手が大学のヒーローの時代ですから、日頃から不良黒人の狼藉に手を焼いている警官らと違って、私には、SAEの学生が根深い人種差別意識を持っていたとは考えられません。しかし、裕福な家庭に育った優等生らが、排他的なエリート風を吹かせ、SAEが、黒人ばかりでなく一般学生からも嫌われる存在だった可能性はあります。

 おそらく大学は、これまでフラタナティの卒業生に金銭面などで恩義があり、内部事情に立ち入って口出しできなかったのでしょうが、インターネットの時代になって、秘密組織に穴が開き始めると、そうはいきません。フラタナティは、SAEに限らず、自己改革をしないことには時代の遺物になっていく運命でしょう。

 私の息子の周囲にも、名門大学でエリート・フラタニティに入った日本人の友人がいました。心身を鍛えるための朝のランニングがきつかったとだけで、ネガティブな話は全く聞いていませんが、皆さんや皆さんのお子さんが勧誘された場合には、入会、入寮する前によく評判をお確かめください。フラタニティの全般については、Wikipedia(日本語)に詳しい解説があります。