「食の安全」チェックA…疑惑食品の中には冤罪も多い!!
メディアの偏向報道やネットの偽ニュースに注意
前回(第125号)では、EatLocalGrown.comの「他国で禁止済みの10食品」で採り上げられた10食品と関連の1食品の安全性についてご報告しましたが、今回はDistractify.comの「他国では禁止の危険な17食品」の中で、前回採り上げなかった7食品について調べてみました。
Distractify.comは、バイラルメディアと呼ばれるSNSを通じウイルスのように情報を拡散するメディアで、記事の内容には少し無責任なところがあります。そのせいか今回採り上げた7食品の大半は、魔女狩りにあったというか「食の安全過激派」のテロにあったとでもいうべき冤罪被害者でした。
7食品に共通しているのは、EUで全てまたは一部を禁止しているという事実ですが、一方で国際的な食の安全基準は国連とWHO(世界保健機構)が共同で設立した国際食品規格委員会が定めており、EUの厳し過ぎる基準は域外諸国と貿易紛争を起こしています。
前回調べた食品の中にも、消費者運動の高まりにより、マクドナルドら一部ファーストフードチェーンが抗生物質を投与して飼育した家畜の肉を使用しないと約束したり、ペプシコら一部飲料メーカーが臭素化植物油の使用を止めたりした例がありましたが、これらは(見方によって)好事例としても、今回は悪事例が多数派かもしれません。そのつもりで、お読みください。
ABCニュースの偏向報道は、結果的に牛肉の価格高騰を招いてしまいました。大手サンドウィッチ・チェーン「サブウェー」は無責任なネット上の偽ニュースと争わず、パン生地のつなぎ材料を替える選択をしました。
○
J通称ピンクスライム(屑肉)を含む牛挽き肉
区分:
○
あまり気にすることはない/ △
気になるならラベル確認/
✖
気になるなら有機食品/ ?
対策なし
【対象】通称ピンクスライムと呼ばれる屑肉を含む牛挽き肉や肉製品
【他国】カナダ(アンモニア使用不可)、EUで禁止(動物食には許可)
【懸念】全米のスーパーが売る牛挽き肉の70%には低脂肪加工した屑肉が混入されていたが、2012年3月に、ABCがニュース番組で「ピンクスライム」という気味の悪い通称を世間に広め、USDA(米国農務省)責任者の天下りと絡めて、これを問題化した(下の動画)。
ピンクスライムは、正しくは低脂肪極細牛肉(Lean
Finely Textured Beef)と呼ばれる中間加工肉。以前はペットフードなどに使われていたが、2001年にUSDA(米国農務省)が人の食用に認可した。混入率が15%以内なら、ラベルに牛挽き肉(Ground
Beef)と表示することがでる。ピンクスライムを含む牛挽き肉は、低脂肪で安いために学校給食用にも積極的に採用されていた。
製法は、まずウシの骨からそぎ取った屑肉を42~43℃に熱し、遠心分離器にかけて脂肪分を飛ばす。次に冷やした上でトコロテン状に押し出し、その過程でアンモニアガスやクエン酸に晒し殺菌する。大半は肉とはいっても、若干の軟骨やスジの成分が紛れ込む。
【検証】本来は牛肉の品質や商品表示の基準の問題であって、食の安全に関し科学的にアンモニアガスやクエン酸の使用が問題視されたわけではない。しかし、ABCニュースの報道の反響は大きく、70%を占めていたピンクスライム入りの牛挽き肉は全米の店頭から消え、1年後にはわずか5%へと激減した。
殺菌にアンモニアガスを使い、ABCニュースに名指しで非難されていたビーフプロダクツ社は、報道直後に72社の契約を失って生産量は1/5以下に落ち込み、4工場のうち3工場を閉鎖した。クエン酸殺菌を採用していたカーギル社も事情は同じで、売上の8割を失って1工場を閉鎖、別工場では2500人を解雇。また、その余波で、挽き肉製造機メーカー1社が倒産した。ビーフプロダクツ社は、ABCとキャスターのダイアン・ソイヤーらに対し、12億ドルの訴訟を起こし係争中。
牛肉の価格も、2年間で27%も上昇した。しかしながら、肉製品メーカーも、ラベルにピンクスライム入りの自主表示を行うなど消費者の信頼回復に努め、混ぜ物入りの牛挽き肉も最近は従来の生産量を回復しつつある。
因みに、牛挽き肉のラベルに"80/20
Ground Beef"とか"80% Lean Beef"と表示されているのは、赤身(タンパク質)80%・脂肪20%という意味。ABCニュースの報道以前は、消費者のダイエット志向によりピンクスライム入りの"90/10
Ground Beef"は、むしろ売れ筋の商品だった。
ピンクスライムの名が初めて活字になったのは2009年の年末で、書いたのはニューヨークタイムズのマイケル・モス記者だった。彼が疑問を挟んだのはアンモニアガスの消毒効果だったが、何もピンクスライムに限らず、挽き肉から細菌を完全に除去するのは難しい。しかし、必ず加熱調理して食べるものだから、包丁やまな板を洗って油断なく調理すれば心配ない。
Jamie
Oliver |
ついで2011年4月にABCの料理番組で、有名シェフのジェイミー・オリバーが、子供相手に無責任なパフォーマンスを見せた(動画)…遠心分離器にかけて脂肪を飛ばしアンモニアガスに晒して殺菌する衛生的な工程を、生肉を洗濯機に入れて回し、どくろマークがついた容器入りのアンモニアを挽き肉に大量にふりかけ、グチャグチャ手でこねて茶化したのだ。
これを契機に、ピンクスライム=汚らしい屑肉の評判がネットで広まった。そもそも精肉加工には血や汚物の処理が付きまとうから、消費者の誤解を解くのは容易でない。
翌2012年早々にマクドナルドが、ピンクスライムの使用停止を宣言。3月6日には児童食のブログ「ランチトレー」の管理人で弁護士のベティーナ・シーゲル女史が学校給食からピンクスライムを一掃するよう呼びかけ、その翌日にABCニュースの報道と続いた。ABCは今のところ報道の自由を盾に、ビーフプロダクツ社とは和解せず戦う方針らしい。
〇
K出荷前に"塩素"洗浄された鶏肉
区分:
○
あまり気にすることはない/ △
気になるならラベル確認/
✖
気になるなら有機食品/ ?
対策なし
【対象】亜塩素酸ナトリウムや二酸化塩素で洗浄した鶏肉
【他国】EUで禁止
【懸念】TTPのEU版TTIP(Transatlantic
Trade and Investment Partnership=大西洋横断貿易投資連携協定)の交渉に関し、ドイツの養鶏業者らが規制緩和に反対。
【検証】塩素といえば、庶民には毒ガスの怖ろしいイメージが強いが、次亜塩素酸ナトリウム、亜塩素酸ナトリウム、二酸化塩素などは、食品の消毒や水道水の殺菌に用いられる毒性の弱い化学物質で、よく洗い落とせば健康上の問題はない。ただし、亜塩素酸ナトリウムや二酸化塩素は取扱いに注意しないと、鶏の洗浄作業に携わる人々の健康被害が懸念される。
△
L放射線を照射された食品
区分:
○
あまり気にすることはない/ △
気になるならラベル確認/
✖
気になるなら有機食品/ ?
対策なし
Radura
Symbol
ラジュラ…照射食品マーク |
【対象】放射線を照射された食品…環境への影響や残留性が懸念される薬剤に代わり、食品の殺菌・殺虫や貯蔵期間の延長に有効。
☆
パック入りの牛肉・豚肉等(O157やサルモネラ菌の殺菌)
☆
パック入りの鶏肉等(サルモネラ菌やカンピロバクターの殺菌)
☆
果実・野菜・穀物(殺虫・熟成や発芽の抑制)
☆
豚肉(旋毛虫病の予防)
☆
ハーブ・香辛料・植物性調味料(殺菌・殺虫)
☆
乾燥・脱水による酵素製剤(殺菌・殺虫)
☆
ジャガイモ(発芽抑制)
☆
小麦・小麦粉(殺虫)
☆
アイスバーグレタス・ほうれん草(O157やサルモネラ菌の殺菌)
【他国】EUでは、芳香用乾燥ハーブや香辛料・植物性調味料を除き禁止。日本では国民に放射能アレルギーがあり、ジャガイモの発芽抑制目的以外には認められていない。
【懸念】一般論としては、放射線が病原菌を突然変異させたり、発ガン性物質や放射性物質を生じたりして、照射食品が毒性を持つように変わるリスクがあるが、食品照射に使用する放射線は弱く、せいぜい加熱調理する程度の威力しかない。ただし、強めの食品照射では栄養素が減損するおそれがある。オーストラリアで照射食品を食べた猫がマヒを起こす事例が相次いだケースも、キャットフード中のビタミンAが破壊されたためとされている。
【検証】照射食品には、右上のラジュラ(Radula)という世界共通の照射食品マークを表示する決まりだが、一見すると自然食品を示すマークのように見えるので、混同しないよう注意。実害はなかろうが、日本ではジャガイモ以外輸入も禁止。
〇
M増粘安定剤カラギーナンを含む乳製品
区分:
○
あまり気にすることはない/ △
気になるならラベル確認/
✖
気になるなら有機食品/ ?
対策なし
【対象】アイスクリームはじめ増粘安定剤カラギーナンを含む乳製品
【他国】EUは乳児用粉ミルクに使用禁止
【懸念】カラギーナンは寒天のように紅藻から採れるヌルヌル成分で、食品にとろみをつけたり液体成分の分離を防いだり、ゼリー状に固めたりする増粘安定剤です。動物実験で、げっ歯類(ネズミ等)は餌の1/4にも当たる大量投与をすると下痢を起こし、胃潰瘍やガンを発症することが知られている。
【検証】カラギーナンは人の消化酵素では分解されず体内をほぼ素通りする食物繊維で、日本も含め各国で古代から食用に用いられてきた。げっ歯類の場合は、カラギーナンの分解物が潰瘍やガンを引き起こすものと見られており、カラギーナンそのものの人に対する発ガン性はこれまで認められていない。
〇
N漂白剤アゾジカーボンアミド入りの小麦粉と関連製品
区分:
○
あまり気にすることはない/ △
気になるならラベル確認/
✖
気になるなら有機食品/ ?
対策なし
【対象】漂白剤アゾジカーボンアミド入りの小麦粉と関連製品
【他国】オーストラリアとEUで禁止
【懸念】アゾジカーボンアミドは、プラスチックやゴムの断熱性・遮音性・クッション性・柔軟性・装飾性を高め軽量化を図る発泡剤だが、一方で小麦粉の漂白剤やパン生地の調整剤として使われてきた。呼吸器に作用してアレルギーやぜんそくを引き起こす疑いがあり、WHO(世界保健機構)も、小麦粉やパン生地の生産現場では、従業員がアゾジカーボンアミドを体内に吸入しないよう注意を呼びかけている。
【検証】アゾジカーボンアミドは純粋な粉末を吸うと危険だが、消費者がアゾジカーボンアミド入りの小麦粉やパン生地を買って調理したり、パンなどの加工品を食べたりしていけないと科学的な議論になったことはない。
しかし、大手サンドウィッチ・チェーンの「サブウェー」は、2014年にネット上で根拠のない中傷(下の動画)を受け、生地のつなぎにアゾジカーボンアミドを使うことをやめた。当時、アゾジカーボンアミドは130を超えるブランドのパンやパン・ケーキの生地など全部で500近い製品に含まれていたことが知られており、なぜ「サブウェー」だけが攻撃されたのか理由は分からない。
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美人ブロガーのバニ・ハリさん(FoodBabe.com)が、アゾジカーボンアミドはヨガ・マットや靴底に使われる化学物質で「食べたら危険」と攻撃的な表情で述べているが指摘は正しくない。 |
〇
O保湿など鮮度を保つためリン酸添加剤を使った肉製品
区分:
○
あまり気にすることはない/ △
気になるならラベル確認/
✖
気になるなら有機食品/ ?
対策なし
【対象】保湿など鮮度を保つためにリン酸添加剤を使った肉製品
【他国】EUで禁止
【懸念】リン酸塩類の多量摂取により心血管リスクが増加するとの説があるが、2013年のEFSA(欧州食品安全機関)の調査でも健康被害は確認されなかった。
【検証】リン酸塩はラーメンやそば、うどんなどの麺類に大量に含まれており、日本では心血管リスクより、腸管からのカルシウム吸収が阻害され、骨粗しょう症や成長期の子供の発育不全の要因にもなるリスクが懸念されている。
?P除草剤アトラジンに汚染された飲料水や農作物
区分:
○
あまり気にすることはない/ △
気になるならラベル確認/
✖
気になるなら有機食品/ ? 対策なし
【対象】中西部コーンベルト(トウモロコシ生産地帯)中心に除草剤アトラジンに汚染された水道水や作物
【他国】アトラジンは日本も含む60ヶ国以上で使用、EUでは禁止
【懸念】農薬の多くは微生物により分解されるが、アトラジンは比較的分解されにくく中西部を中心に地下水を汚染している。環境ホルモンとして働き、カエルのオスをメスに転換しているというセンセーショナルな論文が世間の注目を集めたが、公的には認められていない。アメリカやオーストラリアの環境保護庁は、今のところアトラジンによる人体への影響を否定している。
【検証】カエル論文は、研究者とアトラジンの製造会社シンジェンタ社の泥仕合の様相で、第三者には真相を知るすべもない。シンジェンタ社によれば、EUはアトラジンを禁じる一方で同類のテルブチラジンの使用を許可。仮にアメリカでアトラジンを禁じると雑草被害でトウモロコシや小麦、サトウキビの損害は年に20億ドルを超え、別の除草剤を使えばエーカー当たり28ドルのコスト増…もはや政治問題化しており、中西部コーンベルトに住む人々には転居する以外に逃れる手立てはない。
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