バーベキューの起源は西インド諸島南東端の島国バルバドス
アメリカには南北カロライナと南部テキサスから上陸
スーパーに行くと、様々なバーベキューソースや、バーベキュー用に味付け済みの肉が売られていますが、例えば 「 メンフィス・スタイル 」 と書かれていても、食べるまで味が分からないようでは困りますね。バーベキューの楽しみ方については料理とレシピの工夫 のページの和風と洋風バーベキュー やプロパンBBQグリル の記事でご案内していますが、この記事では、バーベキューの由来と全米各地のお国自慢のバーベキューについてご紹介します。
全米各地のBBQソースと食材
最初に全米各地で代表的な12種類のバーベキューソースのレシピを、下の一覧表にまとめました。味の違いは甘いとか辛いとか曖昧な言葉で表すよりも、それぞれのソースの材料を見て想像していただくのが一番ではないでしょうか。下線部をクリックすると、原レシピを掲載した英語サイトにジャンプします。
伝統的なブタのバーベキューは、トンカツやしょうが焼きになるほど柔らかいロースやハムに加工できるレッグなどを除く硬めの部位の肉を、低温で長時間かけ肉が簡単にほぐれるほど柔らかくて焼き上げる調理法です。南北カロライナやケンタッキー、アラバマなど南東部では、肩肉や肩ロースを使い、メンフィスやセントルイスのバーベキューには、カットにこだわった骨付きのスペアリブを使います。
各地のお国自慢BBQソースとBBQ食材
東部カロライナ
本家アメリカンBBQ
サウスカロライナ(中部)
マジックマスタード
西部ノースカロライナ
元祖ケチャップ系
ケンタッキー
バーボン風味
豚(丸焼き)
豚(肩)
豚(肩)
鶏・豚(肩)・羊
酢
1カップ
サイダービネガー
1カップ
ブラウンシュガー
大さじ1杯
カイエンペッパー
大さじ1杯
タバスコ
大さじ1杯
塩
小さじ1杯
黒コショー
小さじ1杯
マスタード
3/4カップ
サイダービネガー
1/3カップ
ウースターソース
大さじ1杯
タバスコ等 ホットソース
大さじ1杯
ケチャップ
大さじ1杯
ブラウンシュガー
大さじ3~4杯
お好みで
ハチミツ 適量
黒コショー
小さじ1/2杯
ケチャップ
1/
2カップ
リンゴ酢
2カップ
ブラウンシュガー
1/4カップ
塩
大さじ1杯
砂糖
大さじ2杯
白コショー
小さじ1杯
黒コショー
小さじ1杯
唐辛子粉
大さじ1杯
ケチャップ
2カップ
ブラウンシュガー
3/4カップ
リンゴ酢
1/2カップ
パイナップル果汁
1/2カップ
バーボンウイスキー
1/3カップ
廃糖蜜
1カップ
ウースターソース
小さじ2杯
ホットソース
小さじ1/2杯
塩
小さじ1杯
黒コショー
小さじ1/2杯
メンフィス
絶妙なバランス
セントルイス
ややピリ辛系
北部アラバマ
マヨネーズ系
カンザスシティ
全米標準・濃厚
豚(リブ・肩)
豚(スペアリブ)
豚(肩肉・肩ロース)
鶏・七面鳥 ・牛・豚・ソーセージ
ケチャップ
2カップ
マスタード
1/3カップ
リンゴ酢
1/3カップ
刻みタマネギ
1/2カップ
刻みニンニク
小房4片分
廃糖蜜
1/3カップ
ブラウンシュガー
1/3カップ
サラダ油
大さじ1杯
塩
小さじ1/2杯
カイエンペッパー
小さじ1/2杯
セロリシード
小さじ1/2杯
チリパウダー
大さじ1杯
黒コショー
大さじ1杯
ウースターソース
大さじ2杯
あれば薫液
小さじ1/2杯
ケチャップ
3カップ
ブラウンシュガー
1/2カップ
刻みタマネギ
1/2カップ
刻みニンニク
小房2片分
リンゴ酢
1/2カップ
ブラウンマスタード
1/4カップ
ウースターソース
大さじ2杯
しょうゆ
大さじ2杯
ホットソース
小さじ1杯
マヨネーズ
2カップ
サイダービネガー
1カップ
レモン果汁
大さじ2杯
黒コショー
小さじ1/4~大さじ1杯
塩
小さじ1杯
カイエンペッパー
小さじ1/2杯
(以下はお好みで)
ニンニク 1片
ブラウンマスタード
大さじ1杯
砂糖
小さじ1杯
セイヨウワサビ
小さじ2杯
ケチャップ
1 1/4カップ
水 1カップ
サイダービネガー 1/3カップ
ブラウンシュガー 1/4カップ
廃糖蜜 大さじ2杯
オニオンパウダー 大さじ1杯
ガーリックパウダー 大さじ1杯
黒コショー
大さじ1杯
セロリソルト
小さじ1杯
オールスパイス
小さじ1杯
カイエンペッパー
小さじ1杯
テキサス
甘辛系
南西部
激辛系
サンタマリア
中部カリフォルニア岸ローカル
カリフォルニア
東洋風
牛(ブリスケット)ほか
鶏
牛(ボトムサーロイン)
豚(スペアリブ)
ケチャップ
1 1/2カップ
リンゴ酢
1/2カップ
砂糖
1/2カップ
水
1/2カップ
ウースターソース
大さじ2杯
チリパウダー
大さじ1杯
クミン
小さじ1杯
カイエンペッパー
小さじ1/2杯
ケチャップ
1カップ
ブラウンシュガー
1/2カップ
ライム果汁
1/4カップ
酢
1/4カップ
チリパウダー
大さじ1杯
チポトレチリ
小さじ1杯
クミン
小さじ2杯
塩
小さじ1/2杯
塩
小さじ2杯
黒コショー
小さじ2杯
ガーリックパウダー
小さじ2杯
パプリカ
小さじ1 1/2杯
オニオンパウダー
小さじ1杯
ローズマリー
小さじ1杯
カイエンペッパー
小さじ1/4杯
赤ワイン酢
1/3カップ
植物油
1/3カップ
ニンニク
4片
ディジョンマスタード 小さじ1/2杯
ケチャップ
2カップ
ディジョンマスタード
1/2カップ
ブラウンシュガー
1/2カップ
米酢
1/2カップ
刻みネギ
1/2カップ
おろししょうが
大さじ2杯
カイエンペッパー
小さじ1/2杯
しょうゆ
小さじ1杯
ゴマ油
小さじ1杯
発祥はカリブの島国バルバドス
バーベキューの歴史は、カリブの島国バルバドス(Barbados)で生まれたインディオ(タイノ族)のバラビク(Barabicu)という調理法にさかのぼります。
1492年のコロンブスの新大陸発見からまもなく西インド諸島の大半はスペイン領となりましたが、バルバドスは小アンティル諸島の火山島列から外れていたせいかすぐには見つからず、1536年にブラジルに向かうポルトガルの探検家が発見しました(異説もあります)。
西欧諸国に植民地化された西インド諸島と中南米
(西暦1700年)
Giant
Beard Fig Tree
探検家は島中に生い茂る木をバルバドス(Os
Barbadoes)と命名し、同時にそれを島名に採用しました。根がアゴヒゲのようにボウボウと伸びた木(写真右)で、バルバドスを英語に直訳すると 「 Bearded
Ones(あごひげの奴ら) 」 …日本では種子島以南に自生するガジュマルと近縁のイチジクの一種で、他の樹木や岩に巻き付いて成長し時には宿主の植物を絞め殺してしまうそうです。
バルバドスの葉は燃えにくく、タイノ族の人々は、竪穴の炉に焼けた炭や石を並べ、その上にバルバドスの葉を敷いて肉を焼いたそうです。そういえばハワイや南太平洋の島々にも、バナナの葉を敷いたりしてブタを丸焼きにする調理法がありますね。新大陸にはアンデスのアルパカほかを除き家畜らしい家畜がいなかったようで、これは憶測ですが、バラビクはポルトガル人がバルバドスにブタを連れて来たのがきっかけで完成した調理法かもしれません。
バルバドスのタイノ族はスペインの奴隷狩りにより根こそぎ大アンティル諸島に連れていかれ、他のタイノ族とともに鉱山や砂糖プランテーションで酷使されます。ヨーロッパから持ち込まれた疫病の災禍も重なり、17世紀までに少数の例外を残して絶滅しましたが、バラビク調理法はバルバコア(Barbacoa)と名を替えスペイン領で普及し、かつてはスペイン領だった北メキシコやテキサス南部で現代に至るまで伝えられています。
一方、無人島となったバルバドスはイングランドの植民地となり、アフリカから輸入した黒人奴隷の労働による砂糖プランテーションで繁栄しました。1625年に最初の英植民者が上陸した時には、バルバコア生みの親のタイノ族の姿はなく、その代わりにバルバコア食材の野生化したブタが繁殖していたそうです。
1625年は、カトリック寄りの専制政治で清教徒革命(1642~49年)を招いた英王チャールズ1世が即位した年でした。清教徒(ピューリタン)の弾圧が特に厳しかった1630年代に、西インド諸島ではバルバドスを中心に、ニューイングランドと大差ない2万人が入植、1650年のバルバドスの人口は4万4千人で、バージニア(1万2千人)やニューイングランド(2万3千人)を凌駕していました。
その後、護国卿クロムウェルの死を境に清教徒革命は破綻。1660年に即位した英王チャールズ2世は、アメリカに新植民地カロライナを創設し、王政復古に貢献した功臣たちに領地を分け与えました。その中で最も成功したのが、1670年にバルバドスからの再植民者を中心に切り開かれたチャールズタウン(現チャールストン)でした。カロライナ植民地は、バルバドスからもたらされたプランテーション農業と西インド諸島との貿易で発展し、ディープサウスの文化の源流となります。
バルバドスから連れてこられた黒人奴隷のご馳走だったバルバコアも、アメリカ式バーベキューの源流となりカロライナから南部諸州に広がっていきました。
メキシコ系バルバコア
下の3枚の写真をごらんください。メキシコには、バルバコア流の地中炉でマゲイ(アメリカンアロエ)の葉を敷いて焼く各種の焼き肉がありますが、それぞれの食材や味付けにより呼び方が違い、シンプルにバルバコアといえば、何も味付けせずに牛頭を柔らかくなるまでじっくり焼いたバルバコア・デ・カベサ・デ・レスのことを指すようです。典型的な食べ方は、ほぐした肉にタマネギやコリアンダーを混ぜて皿に盛り、ライムをしぼり、サルサを塗りつけたトルティージャにのせて食べる食べ方。
Barbacoa
de Cabesa de Res
Barbacoa
Oven
Maguey
(American Aloe)
下の動画には、テキサス南部の一家が伝統料理のバルバコアを調理して楽しく食事する牧歌的な生活が紹介されています。とても上品な動画で、肉に塩をふりかけるときも、グロテスクな牛の頭が露骨に映らないよう気遣っています。
カロライナの元祖アメリカンBBQ
A
Southern Barbecue by Horace Bradley 1887
左の絵画は主に19世紀後半のアメリカ南部の様子を記録した社会派画家の作品ですが、地中に掘った炉の上に二本ずつ枝を渡し子豚を丸ごと焼いている黒人の姿が描かれています。
上述のように、アメリカン・バーベキューの起源は、バルバドスからカロライナ植民地に連れて来られた黒人奴隷が始めたブタの丸焼きですが、今でもノースカロライナ州東部には、焼き上がった肉をチョップ(たたき切るように細かく刻む)し、酢と黒コショーに唐辛子のシンプルなソースで味付けする伝統的な調理法が残っています。
歴史的にいえば、その南に隣接するサウスカロライナ州チャールストンこそバルバドス移民が最初に入植した地域で、正しくバーベキュー発祥の地のはずですが、いつの間にかこの地域ではブタの丸焼きではなく、肩肉や肩ロースを焼いてマスタードで味付けする調理法に進化しています。
ノースカロライナ州西部のピードモント(アパラチア山麓)地方ではソースにケチャップが加わり、全米各地で主流のバーベキューソースの元祖となりました。下の動画をごらんください。
VIDEO
東西ノースカロライナのバーベキュー対決
ケンタッキー式バーベキュー
私たちが住むケンタッキーの伝統は、ヒッコリーやオークの薪で肉をじっくり燻製風に焼き、繊維に沿って裂いた細い肉片にバーボン・ウィスキーを加味したソースをたっぷり滲み込ませ、ハンバーガーのようにパンに挟んで食べるバーベキューです。
本場はウェスタンケンタッキーのオーエンズボロ。昔は、付近で羊が多く飼われていたそうで、牛肉よりも、羊肉や豚肉、鶏肉の方に人気があります。国際バーベキュー祭 は、毎年5月の第2週。近くを通りかかった方は、有名なムーンライトバーベキュー (Moonlite
Barbeque Inn)に立ち寄ってみてください。
バイキング風のスタンドで、好きな肉を好きなだけ取り分けて食べ比べるシステム。いつもにぎわって盛り上がっていますから、一見+一食の価値はあります。ただし、甘くこってりしたソースは全ての肉に共通ですから、たとえ肉の食感に微妙な違いがあったところで、なかなかアメリカ人客の熱狂にはついていけません。
メンフィス式バーベキュー
スペアリブのバーベキュー
テネシー・バーベキュー の中心地メンフィスのバーベキュー・クッキング世界選手権 が行われるのも5月です。ここでは豚のスペアリブが主役で、焼き方は塩と香辛料でシンプルに味付けしたドライリブと、ソースをたっぷり塗ったウェットリブ。ケンタッキーのように細く裂いてサンドイッチにするレシピもありますが、その場合は豚の肩肉を使うことが多いようです。
メンフィスでは、第二次世界大戦の戦後にバーベキュー用のかまどを設けた小さなレストランが続々と開店してブームとなり、以来、全米的に有名になりました。
セントルイス式バーベキュー
St.
Louis Style Pork Spare Ribs
ミズーリ州セントルイスのバーベキューは、こだわりのメンフィス式と比べても、豚のスペアリブに注ぐ愛情が細やかで、下の動画(左)のようにスペアリブの最も美味しい部位をきれいな長方形にカットして整えるところから始まります。
大方のアメリカンバーベキューのように窯焼き(オーブン焼き)するのではなく、グリル(直火焼き)するのがもう一つの特徴ですが、YouTubeで見ると直火で真っ黒こげに焼いて食べている人は少数派で、下の動画(右)のように、香辛料を塗って225℉(107℃)前後の低温で1時間じっくり焼いた後、ソースを塗ってアルミフォイルにくるんで2時間さらに焼くとか、直火焼きとはいえ肉と炭火の間に水を入れたアルミ皿をはさんでじっくり焼くとかして、優しい焦げめをつけるのがセントルイス式の真骨頂のようです。
VIDEO
VIDEO
How
to Trim St. Louis Style Pork Spare Ribs
Cooking
St. Louis Style Smoked Pork Ribs
ほかに、豚の肩肉を薄切りにしてステーキ風に焼くのもセントルイス式。変わったところでは、豚の鼻や頬(ほほ)の肉をカリカリに焼いて食べるレシピもあります。
カンザスシティ式バーベキュー
豪快なカンザスシティーのバーベキュー
全米数あるバーベキュー競技会の中でも最高峰は、毎年10月にカンザスシティで開かれるアメリカン・ロイヤルBBQ競技会 。大リーグ・カンザスシティ・ロイヤルズの名前に転用されるほど有名な家畜の見本市の会期中に、世界中から約500チームが参加し4日間にわたって競う熱戦です。
牛ブリスケットのバーベキュー
カンザスには西部で最も早く鉄道が敷設され、19世紀末にかけて鉄道が未開通のテキサスやオクラホマからカウボーイが牛の群れを率いてやって来て、列車に乗せてシカゴやセントルイスに出荷する要の地域でした。
ここでは、ポークもチキンやターキーも何でも焼きますが、カンザスといえば、やはりカンザス牛。牛のブリスケット(胸肉=Brisket)やリブ(骨付きばら肉)を、小さくカットせずに大型のBBQグリルで、じっくり豪快に焼くのがカンザス式です。
バーベキュー・レストランが100軒もあり、カンザスシティは「世界のバーベキューの首都(World
Capital of Barbeque)」と自称しています。BBQソースのトップブランドKCマスターピース もカンザスシティ生まれだから「KC」…全米のBBQソースの標準的な味とされていますが、実はカンザスシティ式BBQソースのレシピは、1900年代にメンフィスから移り住んだレストラン店主が考案し、三代目店主が少し甘めに改良したものです。