汚染源は、原水成分、農工業/生活廃水、浄水副生成物
水道水には地域ごとに適切な浄水器の使用が必要
水道水の汚染については、2004年に発覚した首都ワシントンの鉛汚染事件以降、全米で行政の管理が強化され、川下(消費者に近い段階)で深刻な汚染が起きるリスクは大きく減りました。
*2014年に起きたミシガン州フリントの病原菌・発ガン物質・鉛の複合汚染事件は、産業の衰退で財政破綻した都市で起きた例外的な人災だったといえましょう。
各地の地下水に含まれる有害物質
しかし、水道水の原水は100%の純水ではありません。有害物質は水源の水にもともと含まれている場合もあり、農工業廃水や生活廃水が地下水に浸潤して水源を汚染している場合もあります。水道水に含まれる有害物質は100種類近くあり、下の地図はほんの一部ですが、地下水に含まれている有害物質の濃度について全米各地の状況を調べてみました。
全米各地の地下水に含まれる有害物質の濃度
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高濃度
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低濃度 □データなし |
高濃度
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低濃度 |
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高濃度
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低濃度 |
高濃度
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低濃度 |
例えば、猛毒として知られるヒ素も、実は各地の天然水に広く含まれている有害物質です。これに鉱工業廃水や農薬も加わり、アイダホ州南部などでは井戸水を浄化せずに飲み続けては危険な状況です。
また、カエルのオスがメス化するという研究発表を機にEUで使用禁止となったアトラジンという除草剤が、アメリカではコーンベルト(とうもろこし地帯)を中心に広く使われています。中でも農業用に大量の地下水を汲み上げている西部の高原地帯やカリフォルニアのセントラルバレーなど乾燥地では、地下水中のアトラジン濃度が高まる傾向が見られます。
ウラン(ウラニウム)やラドンなどの放射性物質も、ヒ素と同じように天然に広く分布している有害物質です。干ばつに悩む上述の農業地帯では、アトラジンばかりでなく、地下水中で農薬成分の硝酸塩の濃度が高まりますが、ウランがこれと化学反応を起こして水に溶けやすくなり、カリフォルニアのセントラルバレーでは学校など公共施設の井戸水の放射線量が危険なレベルに達し社会問題になっています。
*地下深部から上昇したマグマが結晶化する際に、ウランや一部の重金属を岩石の隙間に貯めます。岩石の風化につれ、ウランは水に溶けて川を下り流域の帯水層に蓄積、微量の放射線を出しながら、天文学的な時間をかけてラジウム(固体)やラドン(気体)へと変わり、最終的には鉛になります。ラドンは気体で地中から放出され地下室はじめ屋内に溜まりやすく、長年吸い込むと肺ガンのリスクが高まるため、民家の建築基準でも厳しく制限しています。
わが家の水道水の安全度を判定
こうした有害物質は浄水場できれいに取り除いたらよいはずですが、地域によっては必ずしも十分に浄化されていません。また、浄水場の消毒工程で、トリハロメタンや臭素酸・塩素酸塩・過塩素酸塩といった有害物質を生じることもあります。
その結果、100種近い有害物質を対象に民間の環境保護団体が設けた厳しい水質のガイドラインを、完璧にクリアーしている地域は大都市といえども皆無と言っていいほどで、田舎の小さな自治体の中には、EPA(連邦環境保護庁)の規制値さえ超え、法的に改善を求められているケースも少なくありません。
そんなわけで、皆さんのお宅の水道水が果たして飲用や調理に適しているか、もしも安全でない場合は、どんな浄水器を使ったらよいか、EWG
(Environmental Working Group)という環境保護団体のウェブサイトで調べてみましょう。水道水のページを開き、お住まいの地域のZIPコードを入力、さらに皆さんがご利用の水道事業者の名前を選ぶと、皆さんのお宅の水道水に有害物質が含まれていないか表示されます。
私たちの場合を例にとりましょう。ZIPコードに40513を入力すると水道事業者の一覧表が現れますから、わが家に水道を供給しているKentucky-American
Water社を選びます。すると、Kentucky-American
Water社は自社の水源で浄水するかたわら、市の北東の周辺5自治体の水道事業者から水道水を購入し、そのまま配水していることが分かりますが、わが家は市の南西部にあるので自社水源の水道水が配水されていると考えてよさそうです。
さらに読み進むと、Kentucky-American
Water社の水道水からは、EPA(連邦環境保護庁)の規制値未満ながら、EWG(民間の環境保護団体)が設けたガイドラインを上回る濃度の有害物質が3種(六価クロム、ラジウム・ウラニウムなど放射性物質、総トリハロメタン)、ほかに低濃度ながら8種の有害物質が検出されているとあります。
しかし、EWG(民間の環境保護団体)のガイドラインの大半は、環境問題に熱心なカリフォルニア州の努力目標値に準ずるもので、EPA(連邦環境保護庁)の規制値と比べ平均で100倍以上も厳しい基準ですから、それよりも低濃度の有害物質が検出されても無視してかまわないでしょう。EWG(民間の環境保護団体)のガイドラインを超える3種の有害物質も、リスクの程度は詳しく読み込まないと分かりません。
実際、六価クロムはEPA(連邦環境保護庁)の規制対象ではありません。EWG(民間の環境保護団体)のガイドラインが0.02ppb(ppb=10億分の1)で、Kentucky-American
Water社の水道水が0.0763ppbと聞くと、約4倍の濃度でひどく汚染されているかのようですが、全米の水道水の平均濃度0.782ppbと比べると約10分の1の濃度ですから、むしろ極めてきれいな水と評価したくなります。
放射性物質も、Kentucky-American
Water社の水道水の近年のサンプル検査の結果を、EPA(連邦環境保護庁)の規制値と比べると、下表のようにかなり低い水準ですから、あまり心配しないことにしましょう。
放射性物質 |
Kentucky-American
Water社
の水道水(2010/’11/’14) |
EPA(連邦環境保護庁)
の規制値 |
EWG(民間の環境保護団体)
のガイドライン |
ラジウム226 |
0.03~0.37
pCi/L |
合計5
pCi/L |
0.05
pCi/L |
ラジウム228 |
0.38~1.10
pCi/L |
0.02
pCi/L |
ウラニウム |
0~0.16
pCi/L |
30
ppb(20
pCi/L) |
0.43
pCi/L |
*pCi/Lは放射線量の単位…リットル当たりピコキュリー
しかし、トリハロメタンだけはEPA(連邦環境保護庁)の規制値80ppbに対し、Kentucky-American
Water社の水道水は47.0ppbと、規制値上限の6割の濃度ですから気になります。EWG(民間の環境保護団体)のガイドライン0.8ppbは厳しすぎるとしても、全米の水道水の平均濃度が23.7ppbですから、褒められる水準ではありません。
適切な浄水器を選ぶ
というわけで、わが家の場合は、浄水器なしで水を飲んでもたいして心配ないが、浄水器を取り付けるとしたら少なくともトリハロメタンだけは、しっかり取り除く製品が望ましいという結論に至りました。
それでは、私たちが現在使っている浄水器が、果たして条件に合っているか確認してみましょう。EWG(民間の環境保護団体)制作の下の動画をごらんください。
浄水器には、形態別に水差し型(Pitcher)、蛇口装着型(Faucet-mounted)、蛇口一体型(Faucet-integratedまたはSeparate
Tap)、卓上型(On-Counter)、机下型(Under-sinkまたはPlumbed-in)があり、ほかに用途別に全館浄水用、冷蔵庫用、シャワー用、スポーツボトル用があります。
浄水方式は様々ですが、最も経済的で全般的な有害物質に有効なのがカーボン(炭素)フィルターで、高価だがヒ素や過塩素酸塩など比較的まれな有害物質まで除去するのが逆浸透膜(Reverse
Osmosis)フィルターです。
EWG(環境保護団体)の浄水器選びのページには、@浄水器の形態・用途、A浄水方式、B浄化したい有害物質の3項目について選択する質問コーナーがあるので、私たちは浄水器の形態・用途については蛇口装着型を指定、浄水方式については特に選択せず、浄化したい有害物質についてトリハロメタンを選択しました。すると、膨大な数の浄水器の名前が列挙されます…その中に、私たちが使用中のPUR社製の蛇口装着型の浄水器も含まれていたので、ひとまず安心です。
念のため、六価クロムとラジウムを取り除くにはどんな浄水器が必要か調べてみました。しかし、両方に効くのは逆浸透膜フィルターだけで、手軽な水差し型や蛇口装着型では対応できないことが分かりました。健康被害は、有害物質の濃度が一定値以下なら絶対安全と言い切るのは難しいのですが、りっぱな浄水器は高価なだけではなくメンテの手間もかかりますから、差し迫ったリスクがなければ皆さんにもお勧めいたしません。
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