アメリカでは、日本と違って家(建物)が減価しません。住宅ローンの利息も所得税の対象から控除されます。(過去5年の間に)2年以上自分で住んでいた家を売る場合、購入時より値が上がって利益が出ても(2年に1度)25万ドル、夫婦で合計50万ドルまで課税されません。ですから、家は借りるのではなく、買わなければ損です。逆にいうと、アメリカ人でアパートや家を借りるのは、短期の都合によるものか、でなければ借りたくても住宅ローンが借りられない人たちの場合が多いのです。

 とはいっても、大都会は人口も多いので、貸家もたくさんあります。敷金や礼金とは別に、不動産屋に1ヶ月の家賃程度の手数料を払って探してもらうのが普通です。反対に、小さな田舎町には貸家が1軒もありません。「売家」の看板を探して売主に頼んで貸家にしてもらうか、会社に買い上げてもらうくらいしか有効な対策はありません。


貸家マーケットの変化


 地方都市では、昔は貸家は低所得者が住むものと決まっていて、日本人駐在員が安心して暮らせる快適な家はまれでした。ところが、80年代後半になって、日系企業が多数進出している地方都市に、日本人相手の貸家業者(不動産投資家)が登場してきます。90年代後半からは、中国やインドからやってきた医者、教授、IT技術者などがサイド・ビジネスで家を貸すケースも増えてきました。

 と、ここまでは、貸家事情は少しずつ好転してきていたのですが、リーマンショックのせいで、貸家マーケットがまた変化しました。仕事の都合でよその土地に引っ越す人たちが、家を売りたくても売れないので、やむを得ず家を貸し貸家の供給が増えました。ところが、同時に、この人たちが引っ越してきた土地で2軒目のローンを借りたくても銀行が貸してくれないので、やむを得ず貸家を借ります。

 貸家の需要も増えたのです。つまり、日本人駐在員の専用だった比較的高額家賃の貸家マーケットが拡大して、アメリカ人と家探しで張り合う時代が来たといいましょうか…いい貸家は、以前より急いで結論を出さないと、先着順でアメリカ人に取られてしまうリスクが増しました。

 さて、家探しにコツがあるとすれば、一つは最も頼りにする人たちのアドバイスをよく聞くことと、もう一つはご家族でよく話し合うことです。アドバイザーが多すぎると誰の話が本当か分からなくなってしまいます。また、夫婦でも、好みや優先順位の置き方が微妙に違いますから、夫にとってベストの家と妻にとってベストの家が一致するとは限りません。本音を隠して譲り合ったりせず、建設的に歩み寄る話し合いをしてください。


チェックポイント


(1)家賃

@不動産屋に家探しを依頼するなら、信用して、あらかじめお家賃のご予算を言わなければなりませんが、相手が自己物件を貸す大家さん自身であれば、先に相手に希望家賃を言わせないといけません。赴任したばかりで地域の相場を知らない皆さんを鴨にして、あわよくば法外に高い家賃をふっかけようとしています。日本食品店の壁に張り紙で宣伝している貸家の中でも、家賃を明記していないケースには特に警戒が必要です。

Aお家賃には相場があるといえばある、ないといえばないのです。貸す側からすれば、月々の貸家を維持する費用(住宅ローンの元利返済、火災保険料、臨時の修理費など)をカバーできなければ赤字です。ただし中には住宅ローンを借りずに全く自己資金で家を買った大家さんもいますから、破格のお家賃の掘出物にタイミングよくぶつかることもあります。学区や家の間取りなど詳細に、こだわればこだわるほど運を掘り当てる確率が減ります。

(2)家の間取りや環境

@安全リスクは都市によって大きく違います。家探しの前に真っ先に確認しなければならないことですが、地方都市の多くは比較的安全ですから過剰反応なさらない方がよいと思います。これまでに多くの日本人が住んでいる地区に住めばまずまず安全といえますが、そうは事情が許さない場合には事前にしっかり調べてください。インターネットで犯罪地図や性犯罪者の住所などを検索することも可能ですが、頼りになるアメリカ人の生の声を聞くことも必要です。アパートも同じですが、お家賃を節約し過ぎると、身の危険まではともかく、周囲の住人がうるさいとか、ドアの前の新聞や届け物が紛失するといった軽いリスクは高まりがちです。

A平均的なアメリカ人は濃い色のペンキで塗った暗い屋内を好みます。それだけの理由で日本人の皆さんに敬遠される貸家も多いのですが、最近の新築物件には、玄関に大きな高窓がある吹き抜け構造など日本人向きの明るい家が増えてきました。ただ、1階が広々としているのは居間が玄関から丸見えの造りのせいだとか、物事には裏表がありますから、よく観察してください。

B日本人には、お風呂やシャワーは特に重要です。主寝室の浴室は十分ゆったりしているかシャワーは独立しているかなど、何軒か比較してみて合格ラインを決めてください。

C日本の家に比べて庭は広いしセントラル・ヒーティングですから、アメリカ人は家の向きを気にしません。南向きの家は、夏、ガレージが暑くなるのでむしろ嫌われると聞いたことがあります。ただし、冬に雪が積もる地方では、北向きでガレージ前のドライブウェイに急な傾斜がある家は避けた方が無難です。

D総レンガの家は、樹脂板張りの家より高価ですから、同じ広さなら普通お家賃も高いのですが、幹線道路に面していて周囲の騒音が気になるような場所でなければ、住み心地自体はあまり変わりません。ご予算の範囲でできるだけ広い家に住みたければ、樹脂板張りの家を選んだ方が賢い選択かもしれません。

E竜巻対策に地下室付きの家を探す方がおられますが、最近の新築家屋には地下室がないのが普通です。地下室といっても、庭に出るドアがある実質3階建てが普通ですから、地下室に強く執着すると家探しの対象が一挙に狭まってしまいます。

F一時はガス代が値上がりして電気暖房の家が増えましたが、シェールガスが採掘されるようになってガス代が劇的に安くなりました。ガス暖房か電気暖房かにこだわらず、家探しには他の要素を優先なさってはいかがでしょう。最終的に2軒のうちで迷うケースがあれば、私ならガス暖房を選びます。

(3)学区(校区)

大都会のように地域による学校間の格差が大きいところもありますが、地方都市なら許容範囲の学校が数あるのが普通です。子供の教育最優先で優秀校のある学区に住みたいというご両親のお気持ちは分かりますが、最初から特定の学区に絞らず、家探しの期間にゆとりがあれば、様々な地域の家をごらんください。

初めて見るアメリカの家ですから、多数の家を見て、現地の住宅事情に詳しくなるにつれ、家探しのプライオリティーも変わってきます。20年前に宅地化された学区で、不動産屋さんに新築物件を探すよう頼む人がいますが、「ないものねだり」です。

(4)大家さんの信用

@当然のことですが、できるだけ日本人の間で評判のいい大家さんから家を借りるのが一番です。ただし、いつも愛想よく、かゆいところに手が届くようなサービスをしてくれる大家さんの場合、お家賃が相場と比べて妥当か調べてから契約なさった方がよろしいでしょう。

A家のトラブルには大小あります。配管の故障による水漏れなどの緊急時に直ちに手を打たない大家さんは最低です。でも、修理の手配がモタモタするのは必ずしも大家さんの落ち度ではありませんから、誠意があるか見極めが必要です。

   自分で手配してみたら分かりますが、配管工などの職人には腕の立つ人が少ない上に時間にはルーズな人も多く、単純に修理を依頼するだけでも一苦労です。建物が補償期間中なら施工した工務店に修理を依頼しないといけないこともあります。

   小トラブルの修理の約束を忘れてしまう大家さんもいますが、言葉の壁による行き違いも多いので、日頃から親しくしてお互い理解し合うのが肝心です。見方を変えると、皆さんは大家さんの大事な資産の見張り番で、重大な家のトラブルについては、皆さんから速やかな報告がないと困るのです。もっとも、不特定多数の個人投資家の貸家を仲介する賃貸代行会社の中には会社ぐるみで無責任な例もありますから気をつけましょう。

B法律は各州で違うので一概に言えませんが、家の賃貸契約はほとんどの州で譲渡可能です。大家さんが、無理なローンを借りて貸家経営をしている場合は、突然、大家さんが変わったり、新しい家の所有者が転居を依頼してくるケースもあります。