蚊が媒介する風土病 ★マラリア撲滅の歴史 ★ウェストナイル熱 ★ジカ熱流行リスク ★虫除けスプレーの選び方 ★できるだけ早く洗い落とす 広いアメリカ…ヘビやクマ、ワニ、サメなどの野生動物に襲われるこわ〜い場所もありますが、ことによると、皆さんのお住まいの庭や身近に立ち寄る場所にも風土病のワナが潜んでいるかもしれません。こわがりすぎてはいけませんが、まず予防方法や救急手段を一通り勉強⇒その上で、庭仕事や野外レジャーを思う存分楽しんでください。 ===== マラリア撲滅の歴史 =====
蚊が運ぶ感染症といえばマラリア。熱帯の風土病というイメージですが、実はマラリアこそ日本の古文献に瘧(おこり)と記されている疫病で、となれば平清盛の死因=マラリアなのだそうです。
アメリカでも、1607年にバージニアに植民した第一陣の104名がたった1年で38名に減ってしまったのは、飢えとマラリアのせいでした。右は、全米各地のマラリアによる死亡率を示した1880年の地図ですが、フロリダやアラバマ、アーカンソーあたりでは、死亡者千人につき70人以上の死因がマラリアだったのですから、当時は極めて深刻な風土病だったわけです。 日米ともにマラリアを克服できたのは戦後になってからです。アメリカは1946年にCDC(米国疾病管理予防センター)の前身を創設し、1947~49年にマラリアの発生が報告されたカウンティの住宅465万戸を、一戸ごと丹念に消毒して回りました。蚊が運ぶ感染症の撲滅は、実に大事業なのです。 ところで、アメリカでは撲滅されたマラリアと、アメリカの風土病として定着してしまったウェストナイル熱と、アメリカへの侵入が懸念されているジカ熱やデング熱の病原体は、それぞれ順番にハマダラカ、イエカ、ヤブカという異なる種類の蚊が媒介します。 ハマダラカとイエカの外見は、翅(はね)がまだらか透明か程度の微妙な差で、簡単に区別がつきませんが、血を吸うときに尻尾を高く上げてとまる方がハマダラカです。ヤブカは、黒と白のはっきりした縞模様があるので一目で区別できます。 ウエストナイル熱 ウェストナイル熱は1937年にアフリカのナイル川上流(ウガンダ)で発見された日本脳炎に似た病気で、蚊が媒介して人や動物に感染します。アメリカでは1999年の夏にニューヨーク周辺に上陸、発症者62人(入院治療59人、死亡7人)を数えましたが、その後はハワイ・アラスカを除く全米で、毎年流行するようになってしまいました。2015年には119人が亡くなっています。 病原体はウイルスで潜伏期間は通常2~6日、発熱や頭痛、のどや背中の痛み、筋肉痛、関節痛などが主症状ですが、発疹やかゆみ、疼痛を伴い、リンパ節が腫れ腹痛、嘔吐、結膜炎などの症状が現れることもあります。感染者のうちで発症するのは2割程度で、さらに脳炎や髄膜炎を併発したりする重症者はごくわずかですが、うち1割が呼吸不全などで亡くなってしまいます。ご高齢者は、特にお気をつけください。
左図をごらんください。ウエストナイル熱の病原ウイルスは、カラスやスズメなど鳥の体内で増殖し、その鳥の血を吸った蚊に刺されたヒトやウマに感染します。ヒトからヒトやウマからヒトには感染しません。主な媒介生物はイエカですが、あらゆる蚊による感染例が報告されています。 ご近所で鳥の死骸を見つけたら、できれば州の衛生局や野生生物局に報告しましょう。ウエストナイル熱だけでなく、鳥インフルエンザ流行の兆候かもしれないからです。そのまま放置しておくと、死骸でも蚊が刺して病気を媒介するリスクがあります。捨てるときは、直接手で触れないよう気をつけてゴミ袋に入れ、一般ゴミ扱いでゴミ出ししましょう。 ジカ熱流行リスク 2016年7月現在、ジカ熱の流行はチリとウルグアイを除く中南米全域に広がっており、下の地図で見ると、アメリカ本土に侵入するのは時間の問題のようですが、大丈夫でしょうか?アメリカでは、2015年1月以来、アラスカを除く全州で計1132件のジカ熱の症例が報告されていますが、今のところ全てが国外感染か、国外感染者との性行為による感染です。
中南米でジカ熱を流行させているネッタイシマカは、ほかにデング熱やチクングニヤ熱や黄熱病などの感染症を媒介するヤブカの仲間で、アメリカにもいて、フロリダやメキシコ湾岸を中心に生息しています。冬の平均気温10℃の等温線が北限です。 また、同じヤブカ属のヒトスジシマカも、ジカ熱を媒介するおそれがあります。こちらは最低気温−10℃にも耐え、特にロッキー山脈以東ではほぼ全域に生息していますが、卵の形で越冬し、卵は親のウイルスを引き継がないので、最悪の場合でも、流行は毎年冬にいったん終息します。 イエカやハマダラカは薄茶色ですが、ヤブカの仲間は黒く、体節や足の関節が白線で区切られています。ネッタイシマカとヒトスジシマカの外見の差は微妙で、ジックリ見ないと区別がつきません。 さて、デング熱やチクングニヤ熱は、これまで何度か国内感染が確認されても、大規模な流行には発展していません。ただ、ジカ熱の怖さは、皮肉なことに発症率が低いことです。今のところ感染の詳しいメカニズムは解明されていませんが、仮に発症前の感染者から蚊の媒介で二次感染が起こるとしたら、CDCや州の保健当局が気づかないうちに流行が拡大してしまうおそれがあります。 特にフロリダは全州がネッタイシマカの生息地で、しかも中南米と縁の深い住民も多いことから、これまでの国外感染者の18%がフロリダ州民と、いつ国内感染の流行が始まっても不思議ではない状況です。 ゴルフをなさる方には心当たりがおありでしょうが、ヤブカは夕方に湧くように出てきてプレーの邪魔をします。ジカ熱の心配以前に、ただ不愉快なかゆみを避けるためだけにでも、ゴルフバッグのポケットには忘れず防虫スプレーを忍ばせておきましょう。 日本の厚生労働省は、感染地域に渡航なさった方は、症状がなくても帰国後2週間程度は、防虫スプレーなどで蚊に刺されない対策をすることや、男女を問わず性行為の際にはコンドームを使用することにより、国内にジカ熱を蔓延させないよう注意を呼び掛けていますから、こちらを参考になさってください。 虫除けスプレーの選び方
蚊やマダニ対策には、虫除けスプレー(Insect Repellent Spray)が有効です。CDC(米国疾病予防管理センター)は、ディート(*DEET)という成分が20~30%含まれるものを推奨していますが、日本の基準値(最高12%)に比べると極めて高い濃度ですから注意して使ってください。 *DEET: N,N-Diethyl-m-toluamide または N,N-Diethyl-3-methylbenzamideと書かれることもあります。 もともとは米軍がジャングル戦のために開発した薬剤だったそうで、用済み後も肌につけたままにしておくと、かぶれや痛みの原因になります。目や口に入ると、涙目や吐き気などの症状が起きます。近年は、ディートよりかぶれのおそれが低いピカリジン(Picaridin/Icaridin)という成分を含む虫除けスプレーが増えてきました。自然製剤でも、レモンユーカリ油(Lemon Eucaliptus)は有効です。 雑誌コンシューマーズレポートは、大がかりなテストをした上で、次の6スプレーを推薦しています。
最近は、香りで虫除けのブレスレットや、音で虫除けのスマホ・アプリまで登場してきていますが、下の動画によれば効果は期待薄です。虫除けキャンドルも、当てになりません。OFF! Clip-OnやThermaCELL Repellerなど携帯用の電気蚊取りはよく効きますが、虫除けスプレーほど頼りにはなりません。 ヤブカは昼行性ですから昼間は衣服や肌に虫除けスプレーを噴霧し、日没後はテント周りに虫除けランタンなど液体蚊取を置いて身を守るなど、アウトドア活動にはきめ細かい注意が必要です。 ===== できるだけ早く洗い落とす =====
虫除けスプレーは、使用説明書をよく読み、衣服にも十分な量を丁寧に吹き付けないと意味がありません。右の写真を参考になさってください。 お子様の場合には、長袖の上着を着せたり、ズボンをブーツや靴下の中にたくし込んだりして工夫し、肌に塗布する量を少しでも減らしてあげましょう。 お子様本人やお子様同士に任せず、大人が手のひらや目や口を避けて、丁寧に塗ってあげなければいけません。 そのほか特に留意したい点は、 1. 衣服へ塗る場合、内側(皮膚に直接触れる部分)には塗布しない。 2. 長時間、肌に塗ったままにしない。子供約4時間、大人約8時間以内が目安。さらに長時間にわたって使用する場合は、薄く塗るかまたは低濃度のものを使用する。 3. 帰宅後は、石鹸などを使い速やかに洗い落とす。 4. 日焼け止め併用の場合は、日焼け止めを最初に塗りその上に虫除け剤を塗る。 5. 一般論として妊婦の使用は薦められない。 |