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鉛製水道管と住環境の鉛害

築1986年以降の家屋は大丈夫 ★鉛製水道管の見分け方 ★本当に怖いのはペンキによる鉛害


 アメリカでは、2004年に首都ワシントンDCの水道水から高濃度の鉛分が検出されたことが報道され、全米規模で水質検査を実施する騒ぎになりましたが、その後2015年にミシガン州フリントの水道水汚染事件が発覚し、再び鉛製水道管による鉛害を懸念する声が高まりました。

 しかし、ちょっと調べれば分かることですが、二つの鉛害事件は、水道事業者が鉛製水道管の劣化を促進する重大な失敗があった点で共通しています。ワシントンDCの場合は、軽はずみな浄水場の殺菌剤切替えにより水道管が急速に老化しました。フリントの場合も、始まりは細菌や化学物質による汚染でしたが、浄水力を高めようと多量の塩素を投与した際に、必要な薬剤の添加を怠ったせいで水道管の腐食が一気に進みました。

 特にフリントの鉛害は、デトロイト周辺の自動車産業の衰退による州や自治体の財政破綻を背景に起きた例外的事件ともいえます。ワシントンDCの事件以降、水道事業者の管理責任や報告義務は強化され、水質検査も一般公開されるようになっていますから、過度な心配はご無用です。

*水道水の安全性については、鉛以外にも有害成分はあるので別の記事でまとめてご案内します。一般論ですが、たとえ有害成分が含まれていても、適切な浄水器を取り付ければ飲用に供することもできます。

===== ≪ 築1986年以降の家屋は大丈夫 ≫ =====

 ただし、地域の水道水の水質に問題がなくても、水道本管から各戸に配水される給水管に鉛管が使われていたり、また若干ながら、屋内の銅管の溶接部に古いハンダが使われていたりすると、蛇口からは鉛分が含まれた水が出てきます。以下に、連邦環境保護庁の説明図を翻訳して掲載しました。

 といっても、水道水の鉛汚染は、世界初の大規模水道システムを築いたローマ帝国以来の問題で、アメリカが特別ひどいわけではありません。実際、アメリカで新規の鉛製水道管の敷設を禁止する連邦法が制定されたのが1986年で、日本で厚生省が各地の水道事業者に対し新設の給水管には、鉛分が漏出しない管を使用することを求めたのが1989年と、初期の対応はアメリカの方が日本よりも早かったくらい。今でも、五輪を控える東京都が世界一の水道システムと自負する一方で、全国では約7%の世帯が鉛製水道管を使用し、香川県の37%を筆頭に20府県では未だに10%を超えています(⇒日経新聞)から、アメリカの現状に文句は言えません。

===== ≪ 鉛製水道管の見分け方 ≫ =====

 したがって、1987年以降に建てられた家屋にお住まいの方は、家周りの配管による鉛漏出の心配はないのでご安心ください。

 1986年以前に建てられた家屋でも、築後に非鉛管に取り換えた可能性も含め鉛製水道管だとは限りません。また、たとえ皆さんが、これまで浄水器なしで鉛製水道管を通過した水を飲んでいたとしても、(他の深刻な汚染さえなければ)健康被害のおそれは強くないので、あまり心配しないでください。

 かといって家探しなさる際に、わざわざ鉛製水道管の住まいを選ぶ理由もありません。そこで、外見で水道管の材質を見分ける方法をご案内しましょう(下の動画)。

 水道管には、塩ビ管、銅管、亜鉛メッキ鋼管、鉛管、鉛合金管などの種類がありますが、鉛管や鉛合金管はコインで表面をこすると、簡単にピカピカになるのが特徴です。非金属の塩ビ管は一目瞭然で、銅管もブロンズ色ですから、表面の汚れを落とせば色だけで判定できます。亜鉛メッキ鋼管は外見で少し決め手に欠けますが、磁石を使えば簡単に確認できます。

 アメリカの戸建て住宅の場合、前庭の縁石の付近に水道メーターがありますが、通常は、水道本管からメーターまでの配管は水道事業者の資産で、メーターから各戸への給水管は個人資産…したがって、各戸への給水管は非鉛管にでも、水道本管からの配管が鉛管の可能性はあります。しかし、このあたりはアメリカの貧富の格差が表れるポイントの一つで、古い住宅域ほど高所得者層向けと低所得者層向けに二分化してきていますから、高所得者が多数住む住宅域では非鉛管への切替が完了していると判断して間違いないでしょう。

=====本当に怖いのはペンキによる鉛害=====

 水道水の鉛汚染が深刻でないのに、各地で鉛害が成長過程の児童に与える影響が懸念されているのは、全米で1978年に禁止されるまで、鉛分を含むペンキなどの塗料が住宅の内外の塗装に使われていたからです。

*日本では1934年まで鉛を含む白粉が使われていて、鉛中毒は歌舞伎役者や花柳界の女性の職業病だったことが知られていますが、家や建物には洋館を除きペンキを塗る習慣がなかったことは幸いでした。

 EPA(連邦環境保護庁)の調査では、1960∼77年に建てられた家屋の24%、1940∼59年に建てられた家屋の69%には鉛含有塗料が使用されていたと推定されています(下のグラフ)。

 こうした古い家の鉛含有塗料はしばしば別の塗料の下に塗り込められており、表面の塗りがしっかりしている間はよいのですが、傷ついて劣化したりはがれたりしてくると、塗料の粉塵が空気中を漂い出すのです。実際、鉛含有塗料が使われた家屋の改築や解体には、アスベスト(石綿)並みに厳しい飛散防止の規制が業者に課されているほどです。

 中には、地域ぐるみで戸外の土壌まで汚染されてしまった市町村もあります。2016年12月にロイター通信が全米34州の0∼6歳児の血液検査の結果を集計したところ、3800ヶ所以上でフリントの2倍以上の率で、幼児から高濃度の鉛分が検出されたというので、騒ぎになりました。著作権の関係で転載できないのは残念ですが、ロイター通信の記事には幼児の鉛害罹患率を地域別に色分けした地図が掲載されており、対象34州にお住まいの皆さんは、ご近所の住環境の鉛汚染状況をご確認できます。

 地図の対象外の地域にお住まいの方々は不安に感じられるかもしれませんが、一般的に古い住宅地でも、ペンキがはげたりしていないきれいな家屋が立ち並んでいるようなら問題ないはずです。