アメリカの 「医療と健康」・e-ガイド(印刷ページ

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主治医とウォークイン・クリニック

★主治医は自分で指名 ★飛び込み診療 ★日米医療の違い ★医療知識を学ぶ ★「NO」という勇気


主治医は自分で指名


 アメリカやカナダの医療では、「一次診療(Primary Care)」を担当する「主治医(Primary Physician)」の役割が重視されています。「主治医」とは、患者さんのカルテを預かり、定期健診をして、日頃の健康上の悩みに親身に応じてくれるお医者さんです。

 「主治医」の専門外の医療が必要なときには「主治医」が「専門科医」を紹介してくれます。人々の健康が「1個人(患者)-1主治医」方式で管理されていれば@病気の予防もできるA誤診も少ないB社会的にも医療費の無駄遣いが起きにくいという考え方なのでしょう。

 「主治医」に選べるのは、家庭医(Family Practice)、一般医(General Practice)、内科医(Internal Medicine)、小児科医(Pediatrics)と呼ばれる内科系のお医者さんたち。その中でも、家庭医というのは、大人でも子供でも家族ぐるみで面倒を見てくれる便利なお医者さんです。

 もっとも、家庭医の中には「乳幼児お断り」のお医者さんもいますし、一般医、内科医といっても「10歳以上は診療可」のケースもありますから、肩書きだけで判断してはいけません。

 どこの国でも同じですが、医学全般の知識があり、ある程度は内科以外の相談にも応じてくれる先生が信頼できます。特に女性の場合には、婦人科の一般健診くらいは(専門の婦人科医に回さず)自らなさる先生がお勧めです。

 内科系のお医者さんは、普通、二人か数人で小さなクリニックを開いています。休暇や出張で留守のときに仲間に代診してもらったり、オフィスや受付の事務員を共有してコストを抑えるためなのでしょう。

 敢えてお医者さんを選ぶ基準をいえば、医療の腕が信頼できることのほかに、できれば夜中でも連絡がつくこと、なるべく受付にしっかりした事務員がいること、患者さんが多すぎて予約が取りにくくないことなどですが、全ての条件を満たすお医者さんはなかなか見つからないものです。

 周りの人によく相談して、いい先生を探しましょう。病院の付属クリニックなど大クリニックにはいい先生もいますが、受付で適当に選んでもらったりせずに、経験豊かな先生を自分で指名することが肝心です。


飛び込み診療


 緊急事態のときには、急いで「911」をコールして救急車を呼んでください。緊急治療室(ER=Emergency Room)にかつぎこまれるようなときに主治医に連絡を取る暇はありません。

 困るのは、風邪で熱が出たくらいの軽い病気のときです。主治医に診てもらうのが一番ですが、予約なしでは診てもらえないのが北米の不便なところです。主治医に電話してすぐに予約が取れないときには、予約なしに順番待ちで診療してもらえるウォークイン・クリニックという医療施設を、ご利用ください。

 普通、平日は午後8時頃まで、週末も営業していますから、急病には便利です。最近は、スーパーやドラッグストアの一部の薬局が店内にクリニックを設けていることがあるので便利です。中には、「主治医引き受けます」と宣伝しているウォークイン・クリニックもあります。


日米医療の違い


 日本のお医者さんとアメリカのお医者さんでは、診療方法も違います。

 そもそも病気には、何をしても快復は早まらないが、ほっておいても時期がくれば治るという軽い病気もあります。少し誇張して言えば、そんなときに気休めのビタミン注射をしてくれるのが日本のお医者さんで、「アスピリンでも飲んで寝てなさい」で済ませてしまうのがアメリカのお医者さんです。

 ビタミン注射は医学的にはほとんど「無駄」ですが、「病は気から」というように、ビタミン注射を小道具に使って、話術で治してしまうのが日本的な名医です。

 そこへ行くと、アメリカのお医者さんはなかなか「無駄な」治療はしてくれません。時が経てば直る軽い病気なら、期待通りの治療をしてくれないのに、苦しい思いをしてお医者さんを訪ねるかいはありません。

 「ものもらい」で眼科を訪ね20〜30ドル払って1時間待ったあげくに「蒸しタオルを目の上に置くだけで治るよ」と言われたケースなどは、最も典型的で分かりやすい例でしょう。日本の目医者さんなら、患者さんをがっかりさせないように、せめて専用目薬くらいは処方してくれますよね。


医療知識を学ぶ


 良きにつけ悪しきにつけ、日本人は概してお医者さん好きなようです。ましてやお子様の病気となれば、軽い発熱でもお医者さんに連れて行きたくなりますが、判断に迷う場合には、万有製薬ホームページ/すこやか子育て健康百科/受診緊急度チェックのページを参考になさってはいかがでしょう。

 医学用語にはラテン語系の単語が多く、英語で正確に意味を理解するのはたいへんです。日本語でかまいませんから、日頃から医療の基礎知識を身につけておけばいざというときに力になります。本格的に勉強なさるなら同じホームページの最新メルクマニュアル医学百科家庭版がお勧めですが、そこまではちょっとという方もみんなの健康百科すこやか子育て健康百科に目を通しておいてはいかがでしょう。


NO」という勇気


 もう一つ皆さんに注意しておきたいのは、私たち日本人の体質や体格の違いと日米の医療方針の技術的な違いです。

 胃カメラといえば日本では局部麻酔が普通ですが、アメリカでは全身麻酔を使います。私は麻酔から気持ちよく目覚めるタイプですが、家内は麻酔に弱く、胃カメラから2〜3日は気分の悪い日が続く体質で、お医者さんには麻酔の深さを調整するようにくどいくらいに念押ししています。

 歯医者さんの例になりますが、はっきり「NO」と言えないばかりに、生えて間もない永久歯を抜かれてしまったお嬢さんがいました。アメリカのお医者さんには「親からもらった身体を大事に…」という思想が若干欠けているかもしれません。抜くも抜かないも患者の意思次第ですから、いやならいやと遠慮なく言わないことには自分の身は守れません。

 日本語医療にも落とし穴があります。日系クリニックは日本人の先生が診てくれるいいのですが、日本語通訳付きのアメリカの医療機関の場合、診療するのはアメリカのお医者さんですから、通訳さんに任せて安心し切っていてはいけません。プロの通訳は医者と患者の言葉を一言一句そのまま訳して伝えなければいけないのですが、医療に限らずビジネスの現場では、通訳さんが自分の意見を加えて訳し、会話を円滑に誘導してしまうことがままあります。YES/NOの場面では、特に気をつけてください。