アメリカの 「医療と健康」・e-ガイド(印刷ページ

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アメリカの医療保険事情

★メディケアとメディケイド ★HMOとPPO医療保険改革


 ご自身の医療保険の使い方さえ知っていれば、アメリカの医療保険事情などどうでもいい話かもしれませんが、医療機関で何かたずねられたときに困らない程度の常識は持っていた方がよいかもしれません。

 特に、このホームページの読者の中には、医療保険のプログラムを選ぶ立場の日系企業の経営者や人事・総務ご担当の方もおいでですから、アメリカの医療保険全般の事情を簡単に説明したいと思います。医療保険のプログラムが悪ければ従業員採用に困りますが、手厚くすると人件費に歯止めがかかりません。


メディケアとメディケイド


 そもそもアメリカには日本のような全国民対象の公的保険制度はないのですが、全くないわけではありません。2006年にマサチューセッツ州では州民皆保険制度が始まり、コネチカット州では2014年までに州民の98%を救済する保険システムが導入される予定です。

 65歳以上のアメリカ市民(連続5年超の永住権保有者も含む)と被扶養家族、65歳未満でも身体の不自由な人や重い腎臓病患者などにはメディケア(Medicare)という公的保険が与えられます。また、それとは別にメディケイド(Medicaid)という公的保険があって貧しい人たちを救うことになっているのですが、認定基準は州ごとにマチマチで相当厳しいようです。

 アメリカ人の平均給与は2001年から2007年の6年間に19%上がりましたが、同じ期間に医療の保険料は78%も上昇しました。おかげで、メディケイドは認めてもらえないが自費で医療保険に加入することもできない気の毒な人々が年々増えています。既に18〜64歳の就労年齢層のうち2割が医療保険非加入者となってしまいました。医療保険に入っていなければ、医療機関で診療を拒否されるのが普通です。


HMOとPPO


 企業負担の医療保険コストも増える一方です。少しでも保険料を低く抑えようと、1970年代から、様々なタイプの保険が開発されてきました。

FFS (Fee-For-Service)

対象医療機関の指定がない昔ながらの医療保険。便利だが保険料が高いのが難点。

HMO (Health Management Org.)

保険料を低く抑えるために考案された最初のタイプ。被保険者は、健康保険組合が契約する医師や病院のネットワーク内で診療を受けなければならない。

一次診療(日常の一般的な診療)は特定の医師が担当し、その他の診療が必要な場合にも、担当医が判断して専門科医を紹介する。

救急の際はネットワーク外の医師や病院の治療を受けることも可能だが、健康保険組合に電話で事前連絡して許可をもらわなければならない。医療内容がチェックされ無駄なコストが削減される反面、しばしば必要な医療まで制限され事故が起こりやすい。

POS (Point of Service)

HMOの問題点を解決したタイプ。被保険者はネットワーク内で一次診療の担当医を選ぶ必要はあるが、割増し医療費を払えばネットワーク外の医師や病院の医療を受けることもできる。

PPO (Preferred Provider Organization)

POSよりさらに自由なタイプで、ネットワークはあるが担当医を定める必要はない。保険会社は、ネットワークの医療機関と医療費の割引契約をしているので費用を安く抑えることができる。最も普及している。

HDHP (High Deductible Health Plan)

通常より高い年間免責額(自己負担しなければいけない金額)を設定する代わりに、保険料を低く抑えるタイプ。2005年に開始。


医療保険改革


 オバマ政権の目玉政策だった医療改革法は昨年(2010年)の3月に何とか成立し、改革の大部分は2014年にかけて段階的に実施されることになっていますが、景気が低迷、財政赤字が拡大する中で、世論は医療改革反対の共和党に味方し中間選挙では民主党が大敗してしまいました。

医療改革はクリントン国務長官の悲願

1993-4年にファーストレディーの立場で挑戦しましたが、野党共和党や保険会社、製薬会社、中小企業などの反対で改革は挫折しました。

 共和党が過半数を占める下院では、医療改革を取りやめる法法案が採択されたほど苦しい状況ですが、民主党が辛うじて過半数を維持する上院が同意せず、何とか命脈を保っています。妥協に妥協を重ねる間に、公営保険会社を作るなど大胆な改革はどこかに吹き飛んでしまったようですが、最大の眼目が無保険者の救済にあることは間違いありません。

無保険者層

富裕層

中流層

Medicare

65歳以上

無保険者

Medicaid

←年齢→

 大手日系企業は従業員の医療保険を会社で負担しているので皆保険と変わりませんが、アメリカの中小企業の場合は従業員が会社のプログラムに自己負担で任意加入するのが普通。無保険者の多くは、当たり前に仕事はしているのに給料が足りなくて保険料を支払えない人たちなのです。

 右の図をごらんください。詳しい条件は省きますが、65歳以上の人々はメディケアでカバーされます。働けない事情のある人々などの最貧困層はメディケイドで救済されますが、メディケイド対象となるほど貧しくない人々が無保険者…アメリカの医療保険は高負担ですから、貧困層というよりは、中流の下層くらいの人々が不景気のあおりで無保険になってきているところがこわいところ。全米で、完全な無保険者は約4700万人で、不完全な保険契約者まで数えると約8670万人…メディケア対象の65歳以上を除くとアメリカ人の29%、約3人にひとりが無保険者と推定されています。

 保険の中身にも問題があります。保険料が歯止めなく猛スピードで値上がりしている一方で、これまでは新規加入者の既往症の補償に制限を設けたり、高額医療を長期にわたっては受けられなかったり、いざというときに役立たずの条件を加えることが許されていましたが、不合理な条件は違法なり、保険会社の経営にも制限が加えられるようになるでしょう。

 日本も他人事ではありませんが、医者、診察に時間をかけずに薬の処方や手術で儲けたくなるシステムも、抜本的に見直される必要があります。