時折、私たちを頼って、周囲の人にも打ち明けられない悩みをご相談に来られる方々がおられます。専門外の分野では限界がありますが、これからも皆さんのお役に立つ機会があれば、北米在住20年の先輩として精一杯お手伝いするつもりですからご相談ください。 中でも、周囲の人にご相談しづらい代表的なお悩みの一つが家族計画です。思い切って私たちに相談してくれる人はまだよいのですが、それもできずにお困りの方が中にはおられるかもしれません。 私たち夫婦は子供が大好きで、できることならご出産の道を選んでほしいと思うのですが、一方でやむをえない事情がおありの方がおられるのも承知しておりますので、アメリカにおける妊娠中絶の可能性についてお話ししておくことにします。 妊娠中絶の合法性 小さな町にお住まいの奥様から、妊娠したか確認したいが地元のお医者さんに行くとご主人の会社の皆さんに知られてしまう…というご相談がありました。妊娠を確認するだけでしたら、「ウォークイン(Walk-In=予約の要らない)・クリニック」で簡単に済ませてくれますから全く心配なさらないでください。 さて、それからご出産の準備となればおめでたい話なのですが、様々な事情でお子様をあきらめなければならないご夫婦もおられます。例え日本にいてもさぞかし心切ないことでしょうが、それはさておいて、そもそもアメリカで中絶手術を受けることはできるのでしょうか? 結論からいえば、どの州でも法的には認められていますし中絶手術を施してくれるお医者さんは見つかります。ですから、そのために帰国なさる必要はありません。でも、大都市の近くにおいででしたら、産婦人科のある日系のクリニックに相談なさってはいかがでしょう。遠くて行けないという方も、電話をおかけになったら、たいていのクリニックが親切なアドバイスをくださるのではないかと思います。 アメリカ人に相談するのは、一般的には、お勧めできません。アメリカには、子供を引き取って育てたい人たちがいっぱいいますから、まず生んで里子に出すように勧められたり、場合によっては自分の養子にしたいと申し出られたり、思いがけない話に発展してしまう可能性があるのです。 政治問題としての妊娠中絶
ところで、アメリカは選挙のたびに妊娠中絶の法規制が争点になる国です。 特に南部の州では、女性の人権を擁護するリベラルな人々よりも、キリスト教右派を中心とする中絶反対派の人々の声が高いようで、中絶手術をするお医者さんは、陰で様々な嫌がらせに会っているようです。 アメリカでは、1973年に連邦最高裁が、殺人罪で訴えられたお医者さんを無罪としたことで、中絶は合法と見なされることになりました。女性の幸福やプライバシーの権利に深く配慮した判決です。 しかし、右の表をごらんください。1972年以前はほとんどの州が中絶を犯罪扱いしていたのです(日本では母体保護目的以外の中絶は非合法ですから、法を条文通り読めば、現在は日本の方が妊娠中絶に関して厳しいといえます)。深南部諸州が、黒人差別感情に引きずられて暴行被害者の中絶を認めていたと考えれば、当時はほぼ全ての州で中絶が禁止されていたと言っていいくらいです。それから35年経ちましたが、人々の考えは、平均的には、大きく変わっていないかもしれません。 |