アメリカの事情 日米の避妊法は、常識が根本から違います。欧米先進国では1960年代初頭に認可された避妊ピル(経口避妊薬)が、(注)日本で一般に利用可能となったのは1999年…薬害を放置する一方で新薬の承認に時間がかかる日本の薬事行政の仕組みはよく理解できません。 私も、以前は、避妊ピルには漠然とした抵抗感を持っていたのですが、月経痛に悩む身近な女性のひとりがアメリカの医師の薦めでピルを服用することになって、考えが180度変わりました。正に「痛いの痛いの飛んでいけ」で、彼女の苦しい症状がすっかり解消したのです。 避妊ピルは継続的な服用でホルモンの量を調節するお薬で、避妊目的以外にも有用です。血栓症などのリスクが高くなるなどの副作用も指摘されていますが、50年にわたってアメリカ女性が広く利用してきた避妊法ですから、日本女性の皆さんも、抵抗感は捨てて、白紙の状態で勉強してみてはいかがでしょう。 (注)厳密にいえば、高・中用量のピルだけは月経困難症の治療薬として販売されていたのだそうです。 避妊ピル
一般的な避妊ピルには、混合型経口避妊薬(Combined Oral Contraception Pill=COCP)という正式名があります。月経周期を調節するエストロゲンと排卵を抑制する黄体ホルモンを組み合わせた錠剤で、毎日1錠 21日飲んで7日の休薬期間を置く28日を1サイクルとして正しく服用することが大事です。休薬日を間違いなく数えるために、7錠の偽薬(薬用成分の入っていない錠剤)を加えて、毎日1錠忘れずに飲みやすくした工夫したパッケージもあります。 ホルモン剤の含有量によって、中用量(mid dose)、低用量(low dose)、超低用量(ultra low dose)と分類されています。別の治療の必要がなければ、(医学門外漢の私としては)避妊には副作用の心配も少ない超低用量ピルがよさそうに思えるのですが、日本では低用量のピルまでしか認可されていないのだそうです。 処方箋なしでも様々な薬がインターネットで簡単に買える時代ですが、女性の身体の中枢をコントロールする大事なお薬ですから、信頼できるお医者さんに相談して選んでもらってください。 モーニングアフター・ピルと中絶ピル ところで、広義でピルといえば、避妊ピルのほかに、性交後72時間以内に服用して受精卵の着床を妨げたり、受精卵が着床した子宮内膜をはがすモーニングアフター・ピル(事後ピル)や、妊娠第7週までなら人口流産を起こす作用のある…中絶ピルがあるのはご存知ですか? 中絶ピルの服用は、薬を手術の代わりに用いるだけで、紛れもない妊娠中絶です。母体の健康にも深く影響を及ぼす医療行為ですから、専門医の検診を受けた上で初めて服用できる薬です。特に、中西部や南部の地方には、都市部でも妊娠中絶に反対する人々が大勢いますから、行きつけの婦人科医といえど、普通は、相談に乗ってもらえません。やむを得ない事情がおありの方には、私は、大都市の日系のお医者さんに電話してアドバイスをお聞きになるようお勧めします。 モーニングアフター・ピルは、正式には緊急避妊薬(Emergency Contraception)と呼ばれています。成分的には避妊ピルに近いのですが、「受精卵は既に命である」と捉えれば受精卵の成長を阻害する効果が妊娠中絶と言えないことはありません。2006年から、連邦レベルでは、処方箋なしで薬局で買えることになったのですが、薬局や薬剤師が「良心」に基づいて販売を拒否する動きが絶えず、今では医師の処方箋を必要とする州も多数あります。 日米避妊法の比較
ところで、日本人とアメリカ人の避妊法の選び方には、大きな違いがあることが分かりました。簡単に言えば、アメリカでは、女性が主体的に確実な避妊法を採っているのに対して、日本は男性まかせで、比較的不確実な避妊法を選んでいるのです。 右の表をごらんになれば、いかにも大丈夫そうな日本的な避妊法の信頼度が低く、何となく頼りなさそうな避妊ピルが、正しく服用すれば、ほぼ完璧な避妊法だということがお分かりでしょう。 不妊手術について少し詳しく調べてみると、女性が卵管結紮(けっさく)手術を受けても今では再手術で元通りになる確率が高いのに対して、男性の精管切除手術は後戻りできず、元に戻せる精管吻合(ほうごう)手術で妥協してしまうと避妊に失敗する確率が高いのだそうです。そのあたりも、女性の不妊手術の数が男性の不妊手術の数を大きく上回る一つの理由なのかもしれません。
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