鎮痛剤中毒は身近なリスク ★主治医の処方で4人に1人が中毒に!! ★90年代末に炭鉱労働者の間で流行 ★大人1人につき1処方箋…女性は特に要注意 ★急性疼痛用の処方鎮痛剤も危険 今年(2016年)3月に、CDC(疾病管理予防センター)が全米の医師に対し、終末医療を除き5種類の鎮痛剤の処方を停止するよう勧告しました。北米では90年代末に鎮痛剤中毒(依存症)の流行が始まり、今では北米全域で猛威を振るっています。 主治医の処方で4人に1人が中毒に!!吸ったり注射したりする麻薬なら単に手を出さなければよいのですが、鎮痛剤は北米ではクスリとして安易に処方され、それでいて中毒になりやすいから怖いのです。言い換えれば、皆さんが普通の暮らしをなさっていても、身近に潜んでいる危険なのです。要点は以下の通り。 @ 全米の薬物中毒による死者47,055人(2014年)の内訳は、鎮痛剤中毒が約4割の1万9千人、ヘロイン中毒が約2割の1万人。中には、鎮痛剤がきっかけでヘロイン中毒に転落した中毒者も少なくありません。ちなみに2013年の銃による死者は33,636人、交通事故による死者は33,782人です。 A 北米では、慢性疼痛の治療にオピオイド(オキシコドンを含め、ヘロインによく似た化学物質の総称)入りの鎮痛剤が安易に処方されてきました。疼痛治療専門のペインクリニックには特に注意しなければいけませんが、主治医の処方でも、継続服用した4人に1人が中毒になっているという恐ろしい統計があります。 B 4月21日に急死したプリンスの遺体から最初に発見されたのは、CDCが処方停止を勧告した5種類以外の鎮痛剤でした。オキシコドンの含有量は低いのですが、それだけに手術後の鎮痛用等の目的で安易に処方されます。それが始まりでヘロイン中毒に転落するケースもありますから、病院で出す薬だからといって安心して服用してはいけません。 C 14州では一部の薬局(CVSファーマシー)が、中毒者のショック症状に備え救命用注射液を処方なしで売っています。救命用鼻スプレーを開発した製薬会社は、4月に全米の高校に無料配布すると発表しました。 90年代末に炭鉱労働者の間で流行CDCが終末医療を除き、処方を停止するよう勧告したオピオイドは、次の5種(カッコ内は商品名)です。 Hydrocodone (Vicodin) Oxycodone (OxyContin) Oxymorphone (Opana) Methadone Fentanyl このうちオキシコドン100%のオキシコンチンは、1996年に鎮痛剤専門のパーデュー製薬が売り出したタイムリリース(薬効成分を時間をかけて放出する)型の錠剤です。中毒になりにくい安全な鎮痛剤といううたい文句で売り出し、古傷の激痛に悩むアパラチアの炭鉱労働者の間でまたたく間に広まりました。ついで悪徳医師らが、手軽な麻薬として疼痛の悩みのない人たちに違法に処方するようになります。私たちの地元ケンタッキー州の東部で起きた話ですから、オキシコンチンの名は、流行の初期から聞いて知っていました。 下の右の地図は、鎮痛剤以外の薬物も含む10万人当たりの薬物中毒による死亡率の推移です。15年間に全米で死亡率が激増したのは、オキシコンチンや他のオキシコドン系鎮痛剤の流行が田舎から都市に拡がり、男性から女性に拡がり、次第に流行する鎮痛剤の種類も増えてきたからです。CDC勧告の5種のうちでも、フェンタニルは、医療用ヘロインより40~50倍強力なオピオイドです。 鎮痛剤中毒の流行はアメリカだけではありません。次の動画は2014年9月にカナダの国営放送局CBCが投稿したドキュメンタリー。冒頭でカナダでは6百万人、アメリカでは5千万人を超える人々が慢性疼痛に悩み、その人たちの中で、じわじわと鎮痛剤中毒が広がっていると警告しています。
動画の主人公は、交通事故の後遺症で慢性化した腰痛を和らげるために、当初は(後にご紹介する)パーコセットという鎮痛剤を飲んでいましたが、1997年に医者に勧められてオキシコンチンの服用を始めました。中毒のピーク時には、1日に80mgのオキシコンチンを30錠飲むこともあったと証言しています。 各地にメタドン・クリニックというヘロインやオキシコンチンの中毒者を治療する施設がありますが、メタドンは、それ自身もCDC勧告の5種に含まれる中毒性が高いオピオイドです。重症中毒者のオピオイド摂取量をできるだけ減らすクリニックで、中毒者を精神的に支える社会的意味はありますが、中毒者の死亡率改善には寄与しないとも言われています。 大人1人につき1処方箋…女性は特に要注意CDCは2013年7月のレポートで、2010年に鎮痛剤過剰摂取により死んだ女性の数は、1999年と比較して4倍で、男性の増え方(2.65倍)と比べ極めて憂慮されると述べています。 痛みには、原因が解消しても脳が痛みを感じ続けてしまうケース(神経障害性疼痛)など、治療困難な慢性疼痛があります。特に女性の場合には原因不明の痛みも多いだけに、オピオイド含有量の高い鎮痛剤を安易に処方されがちです。しかも長期間続けて服用する傾向があり、中毒になるまでの期間も男性より短いそうです。 2014年7月のレポートによれば、2012年の1年だけで、全米で2億5千9百万の鎮痛剤の処方箋が発行されました。これは大人1人に処方箋1通以上の割合で、最近では、1日に50人以上が鎮痛剤の過剰摂取で亡くなっています。 急性疼痛用の処方鎮痛剤も危険冒頭で、CDC勧告の5種の鎮痛剤以外でも安心できないと書きましたが、プリンスの遺体から最初に発見されたのもパーコセット(Percocet)…通称「ホワイトカラーのヘロイン」と呼ばれる急性疼痛用の鎮痛剤です。 (注)後に地元検視局により、直接の死因はフェンタニルの過剰摂取と発表されました。 慢性疼痛用の鎮痛剤オキシコンチンの中には、最高で一錠に80mgのオキシコドンを含む錠剤までありますが、パーコセットの主成分は即効性が高く、市販鎮痛剤にも広く使われているアセトアミノフェンです。遅効成分のオキシコドンの含有量は 2.5~10mgとわずかですが、何錠も飲むとヘロイン同様の恍惚感が得られるそうです。 プリンスは、死の6日前にもミネソタの自宅に帰る機内でショック状態に陥り死にかけています。飛行機は緊急着陸し、プリンスは搬送先の病院で中和剤ナロキソン(Naloxon)を投与され一命を取り止めたと伝えられています。オピオイドの過剰摂取では呼吸中枢が抑制され、強烈な眠気に襲われて息が止まりかけるそうです。 次の動画に登場する奥さんは、大学に通っていたお嬢さんが胃腸炎で入院し、ヘロインにはまってしまった経緯を詳しく語っています。退院時に処方された鎮痛剤パーコセットで得た感覚が忘れられなくなったのが第一段階、より強いオキシコンチンの処方を医師に頼むようになったのが第二段階、当局が医師のオキシコンチンの処方を規制したために、第三段階でヘロインにはまりました。典型的な転落の道でした。 |