アメリカの 「気候と自然」・e-ガイド(印刷ページ

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竜巻(トルネード)街道

★オズの魔法使い ★フジタ・スケール ★竜巻大発生(アウトブレーク) ★私たちの体験 ★正しい避難


オズの魔法使い


 「オズの魔法使い」という童話をご存知ですか?物語は、カンザス州に住んでいたドロシーちゃんが竜巻に家ごと巻き込まれて「オズの国」に飛んでいくところから始まります。

 (私の妻の)満里も子供の頃に読んでよく覚えていましたが、北米に来るまでは竜巻が家を吹き飛ばすなんて作者の創作の世界と信じていました。

 しかし、竜巻の童話に誇張はありません。最強レベルの竜巻に襲われたら、レンガ造りの家でも、基礎や地下室まで巻き上げられて跡形もなくなってしまいます。自動車はミサイルのように100メートル以上を宙を舞って飛び交い、高層ビルも激しく傷つくでしょう。


フジタ・スケール(竜巻の強度)


 竜巻は、1971年にシカゴ大学の藤田教授が定めたF0〜F5のスケールで表されます。2006年2月に風速区分が見直され、現在は改良フジタ・スケール(Enhanced Fujita Scale)が使われています。

EF0

確率53.5%

風速

時速65〜85マイル/秒速29〜38m

F0

時速73マイル/秒速32m

被害状況

軽微。一部の屋根がはがれる。樋(とい)や側壁の羽目板が壊れる。木の枝が折れる。根の浅い木が倒される。

EF1

確率31.6%

風速

時速86〜110マイル/秒速39〜49m

旧F1

時速73〜112マイル/秒速33〜49m

被害状況

中程度。ひどく屋根がはがれる。モービル・ホームはひっくり返るかひどく損傷する。外壁のドアは吹き飛び、窓などガラス類は割れる。

EF2

確率10.7%

風速

時速111〜135マイル/秒速50〜61m

旧F2

時速113〜157マイル/秒速50〜69m

被害状況

かなりの被害。丈夫な家の屋根もはがれる。一般の家が基礎を外れて移動する。モービル・ホームは全壊する。大木が折れ根こそぎ倒れる。軽い物体はミサイルのように飛ぶ。車は宙に浮く。

EF3

確率3.4%

風速

時速136〜165マイル/秒速62〜74m

旧F3

時速158〜206マイル/秒速70〜92m

被害状況

深刻な被害。丈夫な家でも全階が破壊される。ショッピング・モールのような大きな建物にも深刻な被害。列車は転覆。木はなぎ倒され、重い車両も宙に浮いて飛ぶ。基礎の弱い構造物はかなりの距離を吹き飛ばされる。

EF4

確率0.7%

風速

時速166〜200マイル/秒速75〜89m

旧F4

時速207〜260マイル/秒速93〜116m

被害状況

壊滅的被害。丈夫な家でも全壊する。車は小型ミサイルのように吹き飛ばされる。

EF5

確率<0.1%

風速

時速200マイル超/秒速89m超

旧F5

時速261〜318マイル/秒速117〜141m

被害状況

信じがたい被害。堅固な構造の家屋も基礎から吹き飛ばされ跡形もなくなる。自動車大の物体がミサイルのように100メートル以上を宙を舞って飛び交う。高層ビルも著しい損傷をこうむる。想定外の事象が起きる。


竜巻街道


 そういえば、1996年の映画「ツイスター(竜巻の別称)」の主人公の女性科学者の名前もドロシーで、舞台はカンザスの南隣オクラホマ州でした。明確に定義されてはいませんが、オクラホマやカンザスを中心に、北東部テキサスからアイオワやミネソタ南部に至る一帯が竜巻街道と呼ばれる竜巻多発地帯。

 上空のジェット気流に、山岳地域で生まれた冷気団と、砂漠地帯の乾いた暖気団やメキシコ湾の湿った暖気団が巻き込まれて上昇気流の渦が生まれます。

 しかし、左の図を見ると、ほかの地域…例えばミシシッピー川と支流のオハイオ川やテネシー川沿いでも大きな竜巻が起きているのがお分かりですね。

April 3-4, 1974  Super Outbreak 

 ミシシッピー州とアラバマ州の竜巻地帯には、ディキシー街道(Dixie Alley)という名前がついています。


1974年のスーパーアウトブレーク


スーパーアウトブレーク
総数 F0 F1 F2 F3 F4 F5 死者
148 15 37 31 35 24 6 319

 私たちが住んでいるケンタッキー州中央部は比較的竜巻が少ない地方ですが、中西部や南部で安心できる場所はありません。

 「スーパーアウトブレーク」の悪名高い1974年4月の竜巻大発生では、18時間に各地で148本の竜巻が観測され319人の死者を出しましたが、うち71人はケンタッキー州で亡くなりました。


2011年の異常発生


 東日本大震災が起きた2011年は、アメリカでもミシシッピー川が氾濫したり、竜巻が異常発生したり、たいへんな年でした。冬の竜巻は比較的少ないのですが、この年は元日早朝からミシシッピー州の竜巻大発生で年を明け、1年通算で1704本の竜巻を確認、533人が死亡しました。中でも最悪で、私たちもおびえて暮らしていたのが4〜5月です。

竜巻発生報告地図 (竜巻風速33m/秒以上の強風直径5cm以上の雹)

4/25 (⇒拡大)

4/26 (⇒拡大)

4/27 (⇒拡大)

 4月は、既に上旬と中旬に南部で竜巻大発生があり、被害はノースカロライナやバージニア州に及んで51人が亡くなっていました。中西部でも、別に竜巻大発生が起きていました。

 下旬にアラバマ州を中心に起きた竜巻大発生では、2日目に「スーパーアウトブレーク」が持っていた24時間の竜巻発生件数記録を軽く上回る205本を確認。死者も349人に上りました。

2011年4月25〜28日竜巻大発生
総数 EF0 EF1 EF2 EF3 EF4 EF5 死者
325 103 134 51 22 12 3 340

 そのうち27日にアラバマ州タスカルーサの住宅地を襲ったEF4は、最大幅1.5マイル(2.4q)の巨大竜巻Tuscaloosa Tornadoでバーミングハムまで80マイル(120q)をかきむしりながら進み、65名を越える人々の尊い命を奪いました。単独の竜巻としては、1955年に南カンザス竜巻で80人が亡くなって以来の記録です。

2011年5月21〜26日竜巻大発生
総数 EF0 EF1 EF2 EF3 EF4 EF5 死者
242 108 90 31 8 3 2 177

 5月に入っても小規模な竜巻大発生が続き、下旬にオクラホマ州を中心に暴れた竜巻大発生では、オクラホマ‐カンザス州境に隣接するミズーリ州の町ジョップリンが最大幅1マイル(1.6q)でEF5の巨大竜巻Joplin Tornadoに襲われ、158人が死亡してしまいます。わずか1ヶ月でタスカルーサの竜巻を上回る死者を出し、単独の竜巻の死者数としては全米でも54年ぶりという悲しい大記録です。

アメリカで単独の竜巻による死者

1925318

Tri-State (Ellington MI-IL- Princeton, IN)

695人

184057

Natchez, Mississippi

317人

1896527

St. Louis, MI and East St. Louis, IL

255人

193645

Tupelo, Mississippi

216人

193645

Gainesville, Georgia

203人

194749

Woodward, Oklahoma

181人

2011522

Joplin, Missouri

158人

1908424

Amite, Louisiana and Purvis, Mississippi

143人

1899612

New Richmond, Wisconsin

117

1953年6月8日

Flint, Michigan

116

May 22, 2011 Joplin Tornado (⇒拡大)

 タスカルーサやジョップリンの被害を、半世紀以上前のドップラーレーダーがなく警報が正確に出せなかった時代の竜巻被害と同じように比較するのはおかしいかもしれません。 

三州竜巻で児童17人が死んだ小学校

 March 18, 1925  Murphysboro, Illinois

 しかし、1925年のトライステート・トルネード(三州竜巻)の写真を見ると、頑丈そうな学校の建物が爆撃を受けたように破壊されていて、現代の竜巻と比べても間違いなくこわい竜巻であったことがお分かりでしょう。

 ひょっとすると、竜巻がおとなしい時代が終わり、また竜巻が多い時代に入ってきたのかもしれません。皆さんも油断なさらないでください。死者数でワースト10の竜巻の被災地の中には、セントルイスやアトランタ(ゲーンズビル)、デトロイト(フリント)や日系自動車産業の工場所在地も含まれています。

 2005年11月にトヨタのインディアナ工場に近いエバンズビルを襲った竜巻は、F3で最大級ではありませんでしたが、25名という多数の死者を出してしまいました。モービルホーム・パークが直撃され、深夜で逃げ遅れた人が多かったためです。

 モービル・ホームのようにパネルを貼り合わせただけの建物は、F2でも全壊します。竜巻がキャンプ地を襲って大惨事を引き起こすこともありますから、アウトドアのレジャーに出かけるときは油断してはいけません。


私たちの体験


 私たち夫婦は、ケンタッキー州レキシントンの南西方面に住んでいるのですが、昔は家から車で10分もかからない所に焼肉屋さんがありました。

 15年以上前のある日、家族旅行の帰りに夕食を食べようと立ち寄ったのですが、空が異様に明るかったのを覚えています。風もなく快晴でした。

 でも、店に入ると他に客がいなくて、従業員がテレビの前に集まっています。聞くと「トルネード(竜巻)がやってくる」…天気予報のドップラー・レーダー画面には、西の方から真っ赤な雨の固まりが迫ってきています。帰ろうとしましたが、「まだ時間はある」と引き留められました。

 食事中には、空が少し曇ってきたものの、まだまだ穏やかな天気が続いていました。「もっとゆっくり食べても間に合ったね」と話し合いながら外に出たときに、ようやく大粒の雨が降り出しました。

 ところが、5分も運転しないうちに@の地点でラジオの警報音が鳴り出しました…「後10分で竜巻がハロッズバーグ通とマノワー通の交差点(Aの地点)に来ますから至急安全な場所に退避してください、ピーッピーッピーッピーッ」。

 自宅までは5〜6分、迷う間もなく竜巻に向かって進むことにしました。道路に水がたまってスピードを出そうにも出せません。車の数が少ないのは幸いでしたが、交差点では誰もが信号を無視して突っ走っていました。時間が長く感じられました。家に着くなり、毛布を持って地下室に逃げ込みました。

 翌朝、大木が真ん中からポッキリ折れてサブディビジョンの前の通りを一車線ふさいでいました。結局、竜巻は近所にタッチダウン(着地)しないで済んだようです。私の判断は「結果オーライ」でしたが、本当は焼肉屋に戻るべきだったかもしれません。一つ間違えたら命に関わります。天気予報は注意して見ていましょう。天気が荒れ模様の日には、カー・ラジオは必ず点けておきましょう。


正しい避難


 さて、2012年は中西部の大干ばつと10月末に東部を襲ったハリケーン・サンディに象徴される異常気象の年でしたが、春先にはインディアナ南部からケンタッキー東部にかけて大きな竜巻大発生があり、41人が亡くなっています。

 インディアナ州ヘンリービルでは、EF4の竜巻に襲われレンガ造りの豪邸がコナゴナになってしまいました。ガレキに埋もれながらも無事に救出された奥さんがABCニュースのインタビューに応じています(動画開始後1分30秒)ので、ごらんください。

 家自体は頑丈でも、屋根は熱がこもらないよう外気が循環する構造になっていますから、大きな竜巻に遭えば屋根が持って行かれ、屋根が持っていかれれば天井もやられてしまいます。

 動画の中で壊れた地下の様子を見ると、地下に避難しても絶対安全と言い切れないことがお分かりでしょう。助かるためには、あらかじめ家の中で最も安全と思われる避難場所を決め、必要な装備を準備しておくことが大事です。

Westin Peachtree Plaza Hotel

Atranta, March 14, 2008

 一般に安全な場所は、最階下の階で、窓から十分遠いトイレやクローゼットなどを含む造りの堅固なスペースとされていますが、上の階に冷蔵庫や洗濯機、ピアノなど重いものや熱湯が詰まったボイラーがあれば危険です。

 できれば、丈夫な家具の下に、図の例のように体を丸めて身を隠しましょう。布団や寝袋にくるまり、ヘルメットがあればかぶって頭部を守り、丈夫な靴を履いて、崩れたガレキの下から脱出する最悪の事態に備えます。

 自宅が竜巻の直撃を受ける確率は低く、中でもEF4以上の竜巻は全体の1%未満と限られていますが、性質が悪いのは、直前まで、どこに来るのか分からないことです。竜巻の平均時速は35マイル、早いものなら70マイル/時。闇に紛れて視認できない夜の竜巻はなおさらですが、昼間でも、こぶし大の雹や豪雨を伴うことが多く、徒歩にしろ車にしろ、走って安全な方向に逃げるのは困難です。

 職場では竜巻避難場所が指定されているはずですが、竜巻は都市を襲うこともあります。左の写真をごらんください。高層ビルでは、窓や外壁から離れた中央部の部屋に逃げなければなりません。英語ですが、NOAA(アメリカ大気海洋庁)暴風雨予報センターの竜巻対策(Tornado Safety)が具体的で役に立つので参考になさってください。