アメリカの 「気候と自然」・e-ガイド(印刷ページ

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フリージングレインと冬の停電

★発生メカニズム ★自動車は運転不能 ★停電したらホテルに避難か自宅で越冬か


 フリージングレインには「雨氷」という日本語訳があるようですが、日本では滅多に起きない珍しい天気です。私たちも、北米に来て初めて本当の意味を知りました。

 フリージングレインは、周囲を氷の国に変えてしまいます。翌朝に陽光を受けて輝く木々は、見るだけならクリスマスのイルミネーション以上に美しい情景ですが、しばしば人々の生活インフラを壊してしまう困り者です。

 道路はスケートリンク並みに凍結して、自動車事故や転倒事故が相次ぎます。樹氷の重みで倒れた木々が電線を切り、広域が停電に陥ります。復旧には何日もかかることがあり、最悪の場合は、暖房なしで厳寒に耐えて暮らさなければなりません。


発生メカニズム


 フリージングレインは、雪の結晶が上空の暖かい空気でいったん融けて雨滴になり、その下の冷たい空気で「氷点下」に冷やされ、着地と同時に凍結する気象現象です。

 純度の高い水を静かに冷やすと、摂氏0度以下になっても氷にならない「過冷却」という現象が起きます。過冷却水は、軽いショックを与えるだけで一瞬にして凍りつくのです(supercooled water)。

 地表近くの冷たい空気の層が厚ければ、雨滴が凍結してソフトヘイルと呼ばれる氷の粒になります。これがスリート(Sleet)…日本には、凍雨とか雪あられという気象用語があるようです。

”AccuWeather”の解説

 地表近くの冷たい空気の層が薄ければ雨滴は凍結しませんが、微妙なバランスで氷点下になり、フリージングラインの気象現象が生じます。

 天気予報では、しばしば雪や霙(みぞれ)を交えて、ウィントリーミックス(Wintry Mix=冬の天気)という言葉を使いますが、これは気温のわずかな違いで多様なお天気が生まれるからです。

 前線が進むに従い暖かい空気の勢いが強まり、雪が雪あられに変わり、さらにフリージングレインとなって、最後は霙(みぞれ)に変化すればウィントリーミックスのフルコースです。

(注)スリートはイギリスやカナダの英語では日本語の霙(みぞれ)で、雪まじりの雨を指します。


自動車は運転不能


Sleet

Freezing Rain

 スリートでも、氷の粒が道路一面にこびりつきドライブは非常に危険になりますが、フリージングレインの場合は、道路がスケートリンク同然になり全く運転不能です。

 皆さんも、どれほど危ないか右の動画をご確認ください。どんなに遅く走ろうと、動けば必ず滑り、いったん滑り出したら止まるすべもありません。

 アメリカ人も、ウィントリーストーム(吹雪)やウィントリーミックス(またはウィントリーウェザー)の予報が出たら、あらかじめ食料の買出しに出かけて家に引きこもります。スーパーマーケットが週末でもないのに時ならぬ混雑をしていたら、夏でも冬でも、とんでもない悪天候が来るに違いないと身構えてください。


停電したらホテルに避難か自宅で越冬か


February 16, 2003 Lexington, KY

 フリージングレインは、南部からカナダまで広い範囲で起きます。私たちもフリージングレインには二度会って、少し慌てなくなりました。ケンタッキー州レキシントンは2003年2月に被災し、わずか6年で2009年1月にまたやられています。

 その前は、私たちが赴任する前の年の1994年1月。インターステートが1週間も通行止めになり、トヨタのケンタッキー工場も開業以来初の操業停止に追い込まれたと聞いています。

 一番こわいのは停電です。電線が凍って自重で断線するケースもあるようですが、多くは樹木の幹や枝が折れて電線を切るケースです。

 レキシントンの人口は約30万人ですが、2003年のフリージング・レインでは、11万5千軒が停電しました。停電すると、電気暖房は当然ですが、ガス暖房や湯沸かし器も、大部分が使えなくなってしまいます。

 要領がいい被災者は早めに決断してホテルや学校など臨時の避難所に逃れました。わが家は、結果的に、16日日曜日の朝から18日の夕方まで約60時間にわたり停電。外は-5℃の寒さでしたから、暖炉の前で家族全員が身を寄せ合い、手動で(初めて)ガスに着火して気休めの暖を取り、寝袋や布団にくるまって寝ました。

 木々がまだ育っていない新興団地は、倒木がなく停電を免れました。私は、当時の掲示板で日本人の被災者仲間に声をかけ、それぞれが味わった辛酸の経験を記録しておきましたので、冬の非常時対策として是非お読みください。

 赴任したばかりの方が、車に乗ってフリージングレインを見物していたところ、ドアが凍りついて車に閉じ込められてしまったという出来事もありました。笑い話で話しておられましたが、誰も助けに来てくれなかったら命に関わる一大事です。…皆様どうぞご注意ください。

 2009年のフリージングレインも、2003年に負けず劣らず。わが家のシラカバが真っ二つに折れたほどですが、停電が半日で回復して助かりました。しかし、周辺の被害は深刻で、停電で給水場のポンプが止まり断水が何日も続いた町もあります。

 停電といえば、何といっても、ニューヨーク、トロント、デトロイト、クリーブランドなどを巻き込んだ2003年8月の北米大停電が有名です。夏の大都市の停電では、公共交通機関が麻痺すること、冷房が止まり自家発電設備のないビルは耐えられない暑さになること、冷蔵庫が使えず生鮮食料品が腐ってしまうことなどの問題が起きますが、ほかに水道水が湯沸しせずには飲めなくなった地域もあったと聞いています。高度に発達した現代の社会は、停電一つで簡単に機能を停止してしまいますから、常に覚悟しておきましょう。


当時の掲示板(抜粋)

☆− Winter Storm 2003 シリーズ - KJBusiness 山田 03/02/21(Fri) 06:08
    └ いざとなったら戸惑ったこと - さくら 03/02/23(Sun) 01:53
    └ あってよかった!しまった、ない! - さくら 03/02/23(Sun) 01:47
    └ 暖房…まるでマッチ売りの少女 - KJBusiness 山田 03/02/21(Fri) 06:11 
    └ 情報…テレビもない、電話もない - KJBusiness 山田 03/02/21(Fri) 06:10 

投稿時間:03/02/21(Fri) 06:08
投稿者名:KJBusiness 山田
タイトル:Winter Storm 2003 シリーズ

 今日は20日木曜日、雲間からようやく日が差してきました。木々の枝から氷が涼しい音を立てながら崩れ落ちていきます。お辞儀どころか、地面に土下座していた我が家の白樺も、さっきからむくむくと再び頭をもたげてきました。外気温も摂氏8度まで上がっています。
 レキシントン地区に空前のフリージング・レインが降ったのは2月15日土曜日の夜のこと。木々の幹や太い枝が氷の重さで倒れたり折れたりして電線を切ったために11万5千軒が停電。自宅で暖の取れない人たちはホテルや学校など臨時の避難所に逃れました。5日目の今朝になってもまだ2万5千軒が停電のまま。日本人の皆さんの中にも、まだ不自由な生活をなさっている方々もいらっしゃるようです。
 私たちは、16日日曜日の朝から18日の夕方まで被災しました。皮肉なのは、今回の災害のひどさが、停電しなかった家の皆さんには全く実感できないことです。被災者の皆さん、本欄でそれぞれなめた辛酸の味を披露し、貴重な経験を将来の糧として記録しようではありませんか。94年の1月にも「冬の嵐」と大停電があったそうですが、誰も停電対策なんて教えてくれませんでしたよね?

投稿時間:03/02/23(Sun) 01:53
投稿者名:さくら
タイトル:いざとなったら戸惑ったこと

 日曜日の朝、お手洗いに行って停電に気がつきまず思ったのが「トイレを使って良いのだろうか?」ということ。日本での職場はトイレの洗浄水に井戸水を使っていたため、電気が止まると地下水汲み上げポンプが止まり、そこで水を使うとポンプに空気が入ってしまい壊れてしまうのです。アメリカの集合住宅の水道の仕組みを知らないのでとても不安でした。そして、もう一つは排水していいのか?これはその後ラジオで「汚水排水にポンプを使っていると、ベースメントや1階のトイレが溢れる」と言っていました。そこでまた主人に「流しちゃって良いの?」と聞いたら「うちは最上階だからだいじょうぶ!」ですって。そう言う問題じゃないと思うんだけど…。
他にも、信号が消えた場合は4way-stopになることなどは確かに教則本に書いてありましたが、言われるまですっかり忘れていました。こういった生活上注意するべき情報なども繰り返しラジオで流しているので、英語が苦手でも頑張って聞く価値はあると思いました。学校に行っているお子さんがいるご家庭なら、一緒に聞いてお子さんの語学力テストにもなるのでは?
 学校と言えば、13チャンネルが見れなくて困った、という人もいらっしゃるのでは?LEX18、WKYT27チャンネルでは学校その他公共機関のクローズド情報が随時字幕で流れています。天気の注意報警報も画面右上に出ます。今回は医療機関もだいぶこの字幕情報を流していました。
 ラジオで「あそこに灯油売ってるよ」「プロパン売ってるよ」と情報が流れていましたが、びっくりしたのは発電機に関する情報や質問がやたら多かったことです。一般家庭でどうやって使うのだろう??とびっくりしました。うるさそうです・・・。そして発電機の盗難も多くあったとか。
日本では冬用の暖かい布団や毛布があるし、お客様用の布団もかき集めればなんとか寒さに耐えられると思うのですが、セントラルヒーティングでベッドの生活では寝具が落とし穴では?私達は日本から布団を持ってきていたので、全部かき集めればなんとかなりそうですが、暖房が止まり、身を寄せる所がなく自宅にとどまる場合に凍えず眠れる対策は必要ですね。山田さんの書き込みを読んで、私も寝袋買おうかと考えてしまいました。
 どこかへ避難して長期に家を空けると空き巣が入る可能性があります。実際あったようです。気をつけたいですね。そして、状況を伝え合うこと。会社や学校は連絡網があるでしょうが、それ以外でもお付き合いのあるご近所やお友達にはどうしているか知らせておきたいですね。

投稿時間:03/02/23(Sun) 01:47
投稿者名:さくら
タイトル:あってよかった!しまった、ない!

 こういう災害時にはアナログな生活が一番、と実感。
 まず電話。10ドル20ドルで買える、電気に頼らないシンプルな電話機も使っていたので、電話は自由に使えました。おかげでラジオで聞くまで、電気に頼る電話機は使えなくなるということを知りませんでした。携帯は遅かれ早かれ電池が切れます。主人曰く「車のシガーライターから充電するの、買おうか?」ですって。使ってる方いらっしゃいますか?
 つぎにろうそく。アメリカのキャンドルは和ろうそくよりずっと大きく、何日も持ちそうです。幸い以前メリーランドに住んでいた主人が「雪で停電した時に使った」と言って、何本も持っていました。これなら乾電池の心配もありません。ライターかマッチが必要ですが。その代わり懐中電灯は車に常備しています。
 そしてラジオ。これも主人がたまたまクリスマスプレゼントにシャワー・ラジオを貰ったところで、早速活躍しました。乾電池もたまたまたくさん買い置きがあったので停電初日は安心してラジオをつけっぱなしでした。ラジオ局?AMでニュース局があることだけは知っていましたが、周波数までは知りませんでした。でも他にすることがないから暇に任せてあれこれ探して山田さんお勧めのAM590に到達しました。火曜日に近所のradio shack に行ったら、たくさんあった安価なラジオの在庫があと一つだけになっちゃったと言っていました。
 そして一番持っていてよかったと思ったのはやはりスキーウェアとスキーグローブ。こんな風に使うとは日本では考えもしませんでした。
 逆にしまったと思ったのは「非常食」。子供の頃には家に乾パンや缶詰などが常備されていたのを思い出しました。でもアメリカではどのようなものを常備すればよいのでしょう?主人に聞いても「???」。停電初日の日曜日、幸い開いていた近所のスーパーでみんなの買物内容を観察すると、大量のソーダ類と特大サイズのポテトチップス。アメリカ人はこんなもんなんでしょうか。とりあえず冷たくても飲めそうな缶スープとクラッカーとピーナッツバターを買ってみました。油漬の魚の缶詰は主人が嫌いでパス。果物の缶詰を食べるにはこの時期寒そうなのでこれもパスしました。夏には果物の缶詰も買おうかな。竜巻災害に備えて。
 暖房も調理も全て電気に頼る我が家では、身を寄せる先があったのをこれ幸い、あっさり自宅を見放し避難してしまったので、とりあえずはこんなものでした。

投稿時間:03/02/21(Fri) 06:11
投稿者名:KJBusiness 山田
タイトル:暖房…まるでマッチ売りの少女

 あまり考えたことがなかったのですが、ガスの暖房といっても、電気が止まると止まってしまうものなのですね。ウォーター・ヒーターも…。レンジは当然使えません。でも、日本人のご家庭は、鍋物用に、たいてい卓上のガス・コンロを持っていますから、調理とお湯を沸かすのは大丈夫ですよね。ただし、ガス・ボンベの買い置きがないと大変。「だから、買っとけって言っただろう」なんて、こんなときにけんかしないでください。
 外気は摂氏マイナス5度。我が家の暖炉はガス…8年目にしてぶっつけ本番、ちゃんと点いてくださいよ。着火ライターをかざし、じゅうたんに埋もれているガスの栓をひねる、点いた、一安心。でも、煙突の中のシャッターと暖炉の通気口を開けるのを忘れずに(やけどしないでね)。プロパンのボンベをつなぐタイプもあるようです。まきをたく人は、早く買いに行かないとだめ。今回も、日曜日の午前中に売り切れてしまったそうです。最近は、アメリカでも安普請の家があるようで、木製で見せ掛けの煙突を本当に使って火事になった人もいるそうですから、まさかとは思いますが、この点も注意しましょう。
 普段は素敵な広くて開放的なリビングも、暖をとるには狭くてドアのある子供部屋にかないません。しかたなくテーブル・カバーやシーツをピンで留めて、隣室と一応仕切りましたがなかなか暖まりません。空調スイッチに付属の温度計には摂氏約10度から上の目盛りがあるのですが、月曜日には針が下に振り切れてしまいました。結局、直接、熱が当る所に親子集まり、床は冷え切っているのでソファーの上に、綿帽子をかぶりスキー・スーツで厚着して寝袋に入り布団をかけて…やり過ぎて少し汗が出てきましたが。
 アメリカ人の間では、灯油のストーブと灯油がひっぱりだこ。小さな部屋で閉め切って使ったのでしょう、一酸化炭素中毒になる人たちが続々と病院に担ぎ込まれたようです。中には、バーベキュー用コンロを使った人たちまでいるとか。ちなみに灯油は「Kerosine」、今回の事件で覚えた英語です。ラジオで灯油があると聞いて来たのに売り切れていて、それでも次の入荷を朝の11時から待っているという人が水曜日の夜のテレビ・ニュースに出ていました。

投稿時間:03/02/21(Fri) 06:10
投稿者名:KJBusiness 山田
タイトル:情報…テレビもない、電話もない

 何よりも明かりが大切。懐中電灯は大小6本もあったのですが、長期戦には乾電池の在庫が必要。日曜日の午後、ウォル・マートに行ったらほかの電池はあっても単一の乾電池が1個もない。手遅れかっと私たち夫婦顔を見合わせていると、「はいっ、D電池。これが最後のボックスだよ」、いっぱい買い込んでまいりました。
 テレビが映りませんから、ラジオでニュースを聞いていました。電池で聞けるラジオが少なくとも1台は必要です。今まで真剣にラジオ局について調べたわけではなかったので、どの局が緊急事態に良いのか分からない。そこで、「レキシントン・ガイド」という本を取り出して、おもむろに、ふむふむっAM590のWVLK=24時間ニュース局でも聞いてみるか…すごいすごいっ、ずっーと Winter Storm 2003 特集、市やKU(電力会社)の公式会見の合間は、市民からの照会、苦情、何でも電話で受け付けて放送しているので、品薄のものはどこの店に行けばあるとか、暖をとるちょっとした工夫とか。実際役に立つ情報もあってありがたかったけれど、寒くてじっとしている間、何よりも楽しませていただきました。
 神戸の震災のときにはインターネットが役に立ったということで、私も何かしなければと一瞬思ったものの、停電で私自身パソコンが使えないし、困っている人たちも使えないはずだし、あっさりあきらめました。せめて、私たちが家探しをお手伝いした人たちがどうされているかと電話をかけようとして、2本の回線のうちの1本がつながるのが分かりました。受話器に電池のバックアップ機能がついていたのですね…すっかり忘れていたけれど。携帯は充電できないし、できる限り温存。本当に助かりました。