人種差別と死刑判決


     死刑廃止

    1976年以来死刑判決なし     死刑存続 

 古い西部劇映画で、ヒーローが危機一髪のリンチ被害者を助け出すシーンをごらんになった方もおられることでしょうが、アメリカ南部では、特に1890〜1920年代に、多数の黒人が白人のリンチで命を落としました。

 その後も、南部では、冤罪や不当な量刑による人種差別的な死刑判決を見逃してきた暗い過去があります。白人多数派の陪審員裁判で、偏見に基づく誤審判決が生まれるのは無理もないことでした。

近年の死刑執行件数

 Executions

2012 2011 2010 sum

Texas

15

13

17

45

Ohio

3

5

8

16

Arizona

6

4

1

11

Oklahoma

6

2

3

11

Mississippi

6

2

3

11

Alabama

0

6

5

11

Florida

3

2

1

6

Georgia

0

4

2

6

Virginia

0

1

3

4

South Dakota

2

0

0

2

Delaware

1

1

0

2

Idaho

1

1

0

2

South Carolina

0

1

0

1

Missouri

0

1

0

1

Louisiana

0

0

1

1

Utah

0

0

1

1

Washington

0

0

1

1

TOTALS

43

43

46

132

 しかし、1960年代に公民権運動が勢いを増す中、死刑制度そのものの見直しが進み死刑判決の件数も大きく減少しました。

 1972年から4年間、全米で一時的に死刑が停止されたことがあります。

 1976年に連邦最高裁が条件付きで合憲判断し、大半の州で死刑が復活しましたが、カナダは同じ年に全土で死刑を廃止しました。

 アメリカでは、2013年1月までに17州とワシントンDCで死刑が廃止されています。33州は死刑制度を存続していますが、カンザス州とニューハンプシャー州では、1976年以降死刑判決が下されたことがありません。アメリカ軍も同様で、1976年以降軍法会議による死刑判決はありません。

 連邦政府は、連邦犯罪に対して死刑制度を存続していますが、最近では2001年にオクラホマシティ連邦ビル爆破犯の処刑が唯一の事例で、実に38年ぶりの死刑執行でした。1995年のオクラホマシティ連邦ビル爆破事件では、幼児19人を含む168人が死亡、800人以上が負傷。アメリカで、2001年の同時多発テロに次ぐ凶悪なテロ事件でした。


悪名高いテキサス


 日本で、殺人犯とされた確定囚の冤罪がDNAの再鑑定で明らかになる事件がありましたが、アメリカでは、2000年以降、既に処刑された死刑囚の冤罪が立証されるケースが相次ぎ、2004年に連邦議会は有罪確定囚にDNAの再鑑定を受ける権利を保証する法案を可決しました。1973年以来、これまでに通算142人の死刑囚が無罪または無実の可能性を理由とする恩赦により釈放されています。

 連邦最高裁は、2008年に「殺人犯を除いて死刑にしてはならない」とし、13歳未満の児童の強姦に死刑を適用できるルイジアナ州法を違憲と判断しました。ほかにも、18歳以下の少年犯罪や殺人以外の罪に死刑を適用することに違憲判断をするなど州レベルの死刑の乱用を正す傾向にあります。

 死刑存続州も、軒並み、死刑の執行には極めて慎重になっています。2012年末現在、全米で3,146人の死刑囚が収監されていますが、死刑復活後の36年間に処刑されたのは1,320人ですから、死刑囚の10人に7人が存命している計算。例えば、ペンシルバニア州には204人の死刑囚がいますが、1999年を最後に死刑は1件も執行されていません。

 その中で、ひとり、淡々と死刑執行を続けているのがテキサス州。2012年末現在で304人の死刑囚がいるので、年に平均15人の死刑執行は当たり前のペースかもしれませんが、他州と比べると違いすぎるので、これも「テキサスらしさ」と理解されています。

 ブッシュ大統領(子)も、テキサス州知事時代にローマ法王の助命嘆願さえ無視し、死刑を執行した筋金入りの強硬派です。テキサス州では南北戦争以来、全米でも14年ぶりの女囚の処刑でした。