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2011年10月15日(第64号)


来年は4年に一度の大統領選挙

 「ウォール街占拠」運動が全米に拡大しています

 来年は4年に一度の大統領選挙の年です。下院議員の任期はたった2年で、上院議員の任期は6年。下院議員全員と上院議員の1/3、それに11州の知事が、11月第1週の火曜日に改選されます。連邦政府や州政府だけではなくて、自治体の選挙も行われるので、アメリカの有権者は一度に何人も投票しなければならずたいへんです。各地で投票集計マシンが使われ、信頼性が問題になるのも、投票がアンケートの回答以上に複雑なためです。

=== 繰り上がる大統領候補選の日程 ===

2008年は全体のスケジュールが約1ヶ月繰り上がりスーパーチューズデーは2524州で予備選挙・党員集会が開催されました。民主・共和両党民主のみ共和のみニューハンプシャーアイオワ

 大統領選挙は、二大政党が各州の予備選挙や党大会を通じて大統領候補を選出する長いレースで始まります。伝統的に、2月初めのニューハンプシャー予備選挙とアイオワの党大会が皮切りで、2州で好成績を収めた候補が優勢に立ち、2月末〜3月初めのスーパーチューズデーで大勢が決まるのが通例でしたが、人口第42位と第30位の2州が国政をリードするのですから、他州の有権者が不満を持つのは当然です。

 2008年の民主党フロリダ州予備選挙は1月末に開かれ、ヒラリー・クリントン候補(現国務長官)が大差で勝利したのですが、党中央の指示に従わず開催されたため全面的に無効とされ、オバマ候補に接戦に持ち込まれてしまいました。共和党予備選挙も同じ日に開催されましたが、こちらは、州の投票権を半分だけ認める措置が取られました。

 今回は、各州の予備選挙・党大会前倒し競争がさらに激化しています。民主党は、現職のオバマ大統領が実質無競争で当選するのでおとなしくしていますが、共和党では、フロリダのほかにネバダとサウスカロライナが1月開催組に加わり、負けじとアイオワはお正月の3日に決め、ニューハンプシャーは未定ですが、年内開催の可能性も噂されています。

 ルール違反で予備選挙の前倒しをするニューハンプシャーやネバダ、サウスカロライナ、フロリダ、アリゾナ、ミシガンの各州には、今回も投票権半減のペナルティが課されるようですが、党大会の前倒しをするアイオワやコロラド、メイン、ミネソタの各州の場合は、公式には党大会の後で代議員を選出するのでペナルティはなしという不公平感が残る決定です。

 アメリカンドリームの国らしくオバマさんのような無名の候補が勝ち上がって大統領になれるのも、インターネットの時代に、手紙が幌馬車で運ばれていた時代の選挙制度が生き残っているからでしょう。アメリカ式「1票の格差」ともいえますが、長期にわたる大統領選挙の政治ショーが、国民の大統領への忠誠心や政治的関心を高く保つ支えの一つになっているに違いありません。

=== 「ウォール街占拠」運動 ===

ニューヨーク警察前(930日)

 さて、2年前の中間選挙(大統領選挙の中間の年に行われる連邦議会選挙)戦では、「ティーパーティー」の活動が脚光を浴びましたが、今秋、それを上回る注目を集めているのが「ウォール街占拠(Occupy Wall Street)」運動。今回の長期不況の犯人で、公的支援で救済された金融機関が、従業員にリーマンショック以前と変わらない超高額ボーナスを支払っていることに抗議して命名された運動です。

オレゴン州ポートランド(108日)

 中東の民主化運動「アラブの春]に触発され、インターネットで日時を指定し、人々に各地のデモへの参加するよう呼びかけています。最初のデモは9月17日。ウォール街で千人が行進したのが始まりで、運動は急速に拡がり、10月上旬までに全米約50都市で集会が開かれたそうです(といっても、私たちが住むケンタッキー州レキシントンでは参加者30人)。

 資本主義に肝要なアメリカで、貧富の格差が不公平(アンフェア)という主張が力を得るのは極めて異例な現象です。それというのも、アメリカでも、大学卒業後に就職先が見つからない若者の数が激増しているからでしょう。

 プラカードに多いのが「アイアム99%」のスローガン。アメリカでは、1%の最富裕層が金融資産の7割以上を保有していると言われています。オバマ大統領は、この1%を狙い撃ちした増税策を発表したのですが、ねじれ議会で共和党が大反対して実現の見通しが立っていません。

 そこで、オバマ大統領も、次第に「ウォール街占拠」運動に理解を示す発言をするようになり、上手に民主党の味方に引き入れようとしていますが、オバマ政権も、金融機関にズルズルと妥協してきた経緯がありますから予断は許しません。

 いかにアメリカの税制がお金持ちに甘いかは、下表をご参照ください。それまでは最高税率が70%で所得区分が17あった累進課税が、レーガン(1981-1989)と父ブッシュ(1989-1993)の共和党時代に最高31%で3所得区分と劇的に緩和されました。現在の6所得区分の原形を作ったのは民主党のクリントン政権ですが、それでも最高で35%と中所得層とさほど変わらない税率です。

アメリカの所得税率(夫婦合算申告)の推移(⇒クリックで拡大

=== 共和党ロムニー候補 ===

 ところで、共和党の有力候補者ロムニー元マサチューセッツ州知事は、知事時代に州民の皆保険を実現した民主党顔負けのリベラルな政治家です。したがって、ロムニー元知事が、指名争いを簡単に勝ち抜いて共和党候補に選ばれれば、民主党支持者の票も一部は流れオバマ大統領には苦しい選挙になるかもしれません。

 しかし、ロムニー元知事は2008年にも立候補、支持者拡大のために同性愛や妊娠中絶について過去のリべラルな発言を修正した前科がありますから、指名争いが長引けば、党内保守派の経済政策に擦り寄って骨抜きになるシナリオも考えられます。

 また、ロムニー元知事はモルモン教というキリスト教系とはいえ非常に特殊な宗派の信者というのも話題に上っています。歴代大統領の中で、プロテスタント信者以外で大統領になれたのは、カトリック信者のケネディ大統領だけ。前回は、初の黒人大統領が生まれるか初の女性大統領が生まれるか衆目を集めましたが、1年後の11月に誰が次期大統領選挙を制するか、レースは混沌としています。


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