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2014年8月15日(第98号)


K2/スパイス…お子様をアメリカの脱法ハーブから守ろう!!

 若者に忍び寄る危険ドラッグ(合成マリファナ)

 日本で危険ドラッグ(脱法ハーブ)による交通事故が相次ぎ、それを機に危険ドラッグの使用で41人の死亡が確認されるなど大騒ぎになっていますが、これは世界中で起きているトラブルの一端で、ヨーロッパでは2004年頃から、アメリカでも2010年頃から問題が顕在化してきています。

警察庁の調査 2012年 2013年 2014年6月まで
日本で脱法ドラッグにより死亡した疑い 8人 9人 24人
Image of K2, a popular brand of “Spice” mixture.

 日本では警察庁が「危険ドラッグ」と改名しましたが、英語では、違法すれすれでも「合法ドラッグ」あるいは"リーガルハイ"と呼ばれています。「脱法ハーブ」は、その中でも「お香(Herbal Incense)」や「ポプリ(Potpourri)」として売られているタイプで、マリファナのように喫煙具で吸って使用されることから「合成マリファナ」、「合成大麻」という別名で呼ばれたり、二大老舗ブランドの名で「K2/スパイス」と呼ばれています。


高校生(シニア)の10人に1人が合成マリファナ経験


 恐ろしいのは、合成マリファナが自然のマリファナよりはるかに強力で中毒性が高いにもかかわらず、アメリカでは子供たちに身近なところで簡単に手に入れられることです。下のグラフのように高校の最終学年では10人にひとりが合成マリファナを経験済みという調査結果があります。

 皆さんは、アメリカ人の高校生が麻薬をやっていても、皆さんのお子様が巻き込まれる心配はないと安心しておられるかもしれませんが、友だちから「マリファナはタバコより害が少ない」と誘われ、次に「マリファナより合成マリファナの方が楽しい」と二段階で誘われれば、友達付き合いで断れない状況もないとは限りません。

 合成マリファナは各国で禁じられるたびに、中国の工場で麻薬成分の化学構造を少し変えた新製品が開発されるので、当局の取締りはいたちごっこで間に合いません。合成マリファナの吸飲者は、成分がコロコロ変わるたびに死亡リスクを賭して実験台となるのですから、それに比べれば素性の確かな麻薬の方がまだマシかもしれません。


コンビニでも買える ?!


 日本のニュースで、日本では新種の脱法ハーブを禁じるまで手続きに半年以上かかるのに対し、アメリカではただちに仮の販売停止を命じることができると報じられていましたが、実はアメリカの取締りも後手後手に回っています。

 インターネットで簡単に購入できる点は日米共通ですが、下の動画はオハイオのケースで、少なくとも1年前には、タバコ屋、コンビニ、ガソリンスタンドなどで売っていた証拠です。動画に登場する田舎の雑貨屋のおばさんは「いけないものとは知らなかった」と言っています。

2013/05/16 WEWS (オハイオ州クリーブランドのTV局)


その他の麻薬と危険ドラッグ


 動画によれば、昔は刺激的な名前で売っていた合成マリファナが、最近は「Mr.ナイスガイ」など親しみのあるブランド名にして子供たちの警戒心を緩めさせているようですね。

 さて、その「Mr.ナイスガイ」ですが、オーナーが実刑判決を受け現在は入所中にもかかわらず、「戻ってきたぜ。徹底して居座るぞ。」のメッセージを掲げて怪しいドリンクを発売しました。有害とは限らないのでFDA(食品医薬品局)も禁止することはできません(動画)。

 「Mr.ナイスガイ」の公式ホームページには、オーナーと肩を寄せ合うロン・ポール元上院議員(写真右)と「(暴力沙汰のない)麻薬だけの囚人は許して出獄させるべき」の文言…前回と前々回の共和党の大統領候補選に出馬した共和党の大物ですが、銃も麻薬も自己責任という極端な自由主義者です。

麻薬取締局の分類

鎮痛剤系

ヘロイン・ヒドロモルフォンメタドン・モルヒネ・アヘン・オキシコドン

覚醒剤系

アンフェタミン・コカイン・チャット(カット)・メタムフェタミン

抑制剤系

バルビツール・ベンゾジアゼピン・ガンマヒドロキシ酪酸・ロヒプノール

幻覚剤系

MDMA(エクスタシー)・合成マリファナ・ケタミン・LSD・メスカリン(ペヨーテ)・シロシビン・マリファナ(大麻)・ステロイド・吸入剤

未指定

入浴剤(カチノン)・咳止め薬(デキストロメトルファン)・サルビア

 新ドリンクによる事故はまだ起きていないようですが、合成マリファナ以外のタイプの麻薬や危険ドラッグについても覚えておいてください。麻薬取締局は麻薬を4種類に大別していますが、それぞれに抗うつ剤など医療用に使われる薬が含まれていることが、規制を一層難しくしています。

 ケンタッキーのアパラチア地方では、過去10年にわたり快楽用にオキシコドン系鎮痛剤を処方するペインクリニックが後を絶たず、問題はむしろ全米各地に拡がっています。

 麻薬ではありませんが、アルコールは抑制剤、タバコのニコチンは覚醒剤と抑制剤の両方の作用を持っています。自然のマリファナは幻覚剤に分類されていますが、抑制剤の要素も持ってあります。

 冒頭のミシガン大学調査に出てきたサルビアは、メキシコのシエラマドレ山脈に自生するサルビアの花で、日本ではこれも脱法ハーブに含めて数えているようですが、アメリカではまだ麻薬指定を受けていません。

Bath Salts

Bath Salt

 東京都の危険ドラッグ警告サイトでは、ハーブのお香タイプ以外に、線香、入浴剤(バスソルト)、アロマ(芳香液)タイプの危険ドラッグがあると警告していますが、2年前のe-ニュース第72号でお伝えしたようにマイアミでホームレスを襲い頭を丸かじりした猟奇事件の犯人が事件前に服用していたのも、正に入浴剤でした。

 抑制剤系のロヒプノール(睡眠導入剤)は、若者の間で、アルコールに混ぜて飲ませ眠った女性を乱暴する犯罪が多発し、デイトレイプ・ドラッグという不名誉なあだ名をつけられてしまいました。


一次的トラブル…身体障害・死亡事故


 さて、合成マリファナを使用した人たちの悲惨な体験を、身体障害や死亡事故などの一次的トラブルと、精神障害により引き起こされる自殺や凶悪犯罪などの二次的トラブルに分けて、動画でごらんください。

 最初は、下半身がマヒして動かなくなったインディアナの27歳の青年の動画です。日本では横紋筋融解症で死亡した人がいるそうですが、この青年も同じ症例でしょう。横紋筋融解症は、骨格筋の細胞が壊れて筋肉に障害が現れ、重症の場合は流出したタンパク質で腎臓に負担がかかり、腎障害で死亡することもある怖い病気です。

2010/08/25 WLFI (インディアナ州ラファイエットのTV局)

 青年は、合成マリファナを1日3回、無害と信じ2ヶ月にわたって使用しました。一人でアパートに住んでいたのでしょう…夜中にベッドから落ちたら足腰が動かないので、床をドンドン叩いて助けを求めたそうです。階下の人が救急隊を呼んでくれるまで13時間かかりました。「全身の筋肉がズタズタ」で、医者は快復に1ヶ月かかると診断しています。

 青年は「二度とやらない」と言っていますが、中には中毒(依存症)になりやすいものもあります。また、動画は、合成マリファナを日常的に吸引した末に慢性的な身体障害が起きた例でしたが、日本では、吸引後に過度の興奮状態に陥り、急に鎮静化した際に心臓や呼吸が止まる死亡例も報告されています。おそろしいですね。

 2012年12月には、ヒューストン郊外で17歳の少女が合成マリファナを使用した直後に頭痛に襲われ、排尿したり壁に激突したり奇行を繰り返しました。病院に運んで自然治癒を待っていましたが、1日経っても狂暴な自傷行為が収まりません。精密検査をしたところ深刻な脳卒中が見つかり緊急手術。しかし手遅れで、既に脳の7割が損傷していました。医師に宣告され、一時は植物人間になることも覚悟していましたが、その後(2013年2月DailyMail)、目は見えず手足はほとんど動かせなくても、何とか家族は認識できるところまで快復してきました。


二次的トラブル…自殺や凶悪犯罪


 ヒューストンの少女やマイアミの猟奇事件の犯人のように、血圧や体温が上がり心身が興奮状態で自殺したり、他人に危害を加えたりする例が多々ありますが、麻薬や危険ドラッグは、誰にでも同じように効くわけではありません。

 アメリカで合成マリファナが問題視されるきっかけとなったのは、2010年6月にアイオワ州インディノーラで18歳の少年が自殺した事件ですが、この少年の場合は、初めてのK2服用でうつ状態になり、自宅に帰りライフルで衝動的に自殺したもののようです。少し長めですが、この少年の弟が兄を偲んで制作した動画があります。合成マリファナを吸引したり吸ってから暴れたりする刺激的なシーンが登場しますが、それでもよろしければごらんください。

 そのほかに、合成マリファナを買うお金を手に入れるために凶悪事件が引き起こされる例があります。2012年4月には、日本人の皆さんも多数住んでおられるデトロイト郊外のファーミントンヒルズの家に、その家の長男で19歳の少年と友人が強盗目的で押し入り、バットで父親を撲殺、母親と妹に重傷を負わせました。二人は、合成マリファナの常習者です。

2012/05/03 WXYZ (ミシガン州デトロイトのTV局) 

 動画の後半では、同じように、1日50ドルの合成マリファナ購入資金ほしさに自分の高校に盗みに入った少年が、更生して体験を語っています。当時は怒りの感情を抑えられなかったそうです。

 NPO関係者によれば、合成マリファナ常習者には一般的に物忘れや神経障害、激しい感情のブレなどの症状が起きます。母親は、息子の部屋に入ってもマリファナの臭いはせず、代わりに清々しいポプリの香りがしていたので全く気がつかなかったそうです。