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2017年4月15日 (第128号)

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暮 ら し

基礎知識

 連邦政府のテロ対策で全米のID(身分証明)が転換期

 州により運転免許証では飛行機に乗れなくなる?

 アメリカでは21歳になるまで、お酒を買ったりバーに入ったりすることができません。でも、大学生になって親許を離れたら、本物の運転免許証とは別に生年月日を誤魔化す偽造運転免許証(フェイクID…偽の身分証)を作り、背伸びして仲間とお酒を飲みに行くのも半ば暗黙の了解とで社会的に許されています。

===== フェイクID(偽の身分証明) =====

 インターネットは偽の身分証明(フェイクID)作りのサイトで大にぎわい…製造元は中国が多いようですが、本物と区別のつかない精巧な製品が送られてきます。ニューヨークのクイーンズには、偽のグリーンカード(永住ビザ)とソーシャルセキュリティカード(社会保険証)と運転免許証の3点セットをわずか260ドル、たったの1時間で作ってもらえる場所もあるそうです(こちらをご参照)。

===== リアルID法(2005年) =====

 学生の飲酒目的のフェイクIDはチョイ悪で見逃してあげたいところですが、テロリストがフェイクIDで空港や連邦政府ビルに侵入するのを許してはなりません。そこで2001年の同時多発テロから3年半後にリアル ID法という連邦法が制定されました。その結果、運転免許証の取得・更新時の個人情報確認が各州に厳しく求められるようになります。また、それまで規格化されていなかった運転免許証に一定の読み取り機能や偽造防止技術が組み込まれることになりました。

 ところが運転免許証の発行は、相変わらず州の権限です。リアル ID法は連邦政府の押し付けだとして、数多くの州で保守・リベラルの両派から強硬な反対意見が出る事態になりました。12年経っても、まだ一部の州ではリアル ID法に適合する運転免許証採用に踏み切る目途が立っていない状況です。反対する理由は一言でいえばプライバシーの保護ですが、実は不法移民の運転免許証をどう扱うかが一つの焦点…保守派は不法移民がリアル IDを持つようになってしまうと危惧し、リベラル派は不法移民が無免許で運転するようになったら危険だと心配し、話が全くかみ合いません。

===== 運転免許証で飛行機に乗れない!=====

 上の地図は最新の各州の状況を表したものですが、まだリアル IDに適合する運転免許証を発行するつもりのない赤色表示の4州(ミネソタ・ミズーリ・メーン・モンタナ)の州民は、来年(2018年)1月22日から運転免許証を提示しても空港や連邦政府の関係施設に入場できないことになっています。

 約半数の州(グリーン)は既にリアル IDに適合する運転免許証を発行し始めているか準備が進んでいる段階で、これらの州民は来年(2018年)1月22日以降も現在の運転免許証で飛行機に搭乗できます。ただし、いつまでもリアル ID適合の運転免許証に更新せずにいると、2020年10月1日以降は空港で IDとして使えなくなります。連邦政府の関係施設も同じです。

 黄色とオレンジで表示された州は、リアル ID適合の運転免許証を発行する方向で連邦政府と協議中で、それぞれ今年の10月10日までと6月6日まで猶予期間が与えられています。

===== パスポートがあれば大丈夫 =====

 といっても、日本人ならパスポートを持っているので、アメリカの国内旅行でもパスポートを携行することにすれば問題ありません。困るのは頻繁に海外旅行をしないアメリカ人の場合で、わざわざ郵便局でパスポートを申請しなければ飛行機に乗れない人も出てきます。大した話ではないのですが、パスポートの発行手数料は165ドル…所要日数も6∼8週間と長く、あちこちから不満の声が聞こえてきます。

 私たちが住むケンタッキーでは、今年1月に議会がリアル ID適合の運転免許証を発行する法律を議決したのですが、知事が共和党保守派に配慮して拒否権を使って出直しとなり、3月に内容を改めて制定されました。現在の運転免許証の有効期限は4年で発行手数料はたった20ドルですが、新運転免許証の手数料は48ドルで、代わりに有効期限が8年になります。ちなみに、飛行機の搭乗に使えない普通の運転免許証は5ドル安上がり。

 ただし、新運転免許証に切り替えの時期は2019年の中頃となりそうで、連邦政府がケンタッキー州の猶予期間を延長してくれないと、私たちも来年1月22日以降は国内便でも飛行機に乗る際はパスポートを携帯しなければならなくなるわけです。

===== 高機能免許証と運転特認証 =====

 カナダと国境を接する5州(ミシガン・ミネソタ・ニューヨーク・バーモント・ワシントン)では、カナダ向けにパスポートを代用する高機能運転免許証(Enhanced Driver's License)を発行しており、国内便の飛行機搭乗にも使えそうです。カリフォルニアやアリゾナ、テキサスでも近くメキシコ向けにパスポートを代用する高機能運転免許証を発行する動きがあります。

 運転免許証を得られない不法移民には、運転特認証(Driving Privilege Card)を発行する州もあります。ケンタッキーの新運転免許証も呼び方は違いますが、国内便の飛行機搭乗に使える運転免許証と、使えない運転免許証を選択できる制度設計は同じで、最終的には多くの州がこの方式を採用するものと思われます。

 ややこしい話ですが、お分かりになりましたか?