レストランは北米全土ほぼ禁煙

　アメリカで近代的な嫌煙運動が始まったのは、1970年代に二次喫煙の健康被害が問題視されるようになってからです。1975年に、ミネソタ州がレストランに禁煙コーナーを設けることを義務付けたのが、公共の場で喫煙を制限する最初の法律で、スキーリゾートで有名なコロラド州アスペンがレストランの全面禁煙を決めたのは10年後の1985年でした。私の記憶でも、1980年代半ばにニューヨークで小さな会議に出た際に、アメリカ人の女性エリートが、きつい臭いのタバコを吸うフランス人やイタリア人の男性に禁煙を強制しようと多数決を迫った事件がありました。

　それから、また約10年後の1994年、カリフォルニア州が、州単位では初めての公共スペースを全面禁煙とする法律を制定しましたが、その他の州が追随し始めたのは、さらに10年後の21世紀に入ってからでした。

　しかし、それからは各州で禁煙立法の動きが加速します。2008年までに屋内の公共スペースを全面禁煙としたのはワシントンDCと24州でしたが、4年後の現在は29州に増え、レストランを全面禁煙としている州を含めると40州を数えるまでになりました。もっと驚くのは、禁煙法を制定していない10州でも、バージニア州を除き、4年前（e-ニュース第28号）と比べ、大半の自治体が個別に禁煙条例を定めていることです。

　それでも、カナダ各州の禁煙法に比べれば、アメリカはまだ生ぬるいと言わざるを得ないでしょう。カナダでは、マニトバ州を除く全州で、屋外も含む全ての公共スペースで禁煙を義務付けています。

心臓病激減…次は屋外禁煙

　私たちが住むケンタッキー州はタバコの大生産地ですから、最近までは反禁煙勢力にも勢いがあったのですが、今や来年当たり州レベルの禁煙法が制定される可能性も出てきました。

　背景には、欧米各地の禁煙法により心臓病が激減したという報告が相次いでいるからです。たとえばAHA（アメリカ心臓協会）の研究では、欧米とカナダの都市の平均で、禁煙法導入の初年度に17％、3年で26％の心臓発作の減少が見られたそうです。

　禁煙の条件も、自治体ごとに少しずつ厳しく改定されています。ケンタッキー州レキシントンでは、2004年の禁煙条例制定時の条件が見直され、私的な集会も公共の場とみなされ禁煙することになっています。病院では、敷地全域が禁煙となりましたから、喫煙する入院患者の逃げ場が一切なくなってしまいました。

　2011年には、ニューヨーク市が、公園などの屋外公共スペースを全面禁煙にしました。マンハッタンの愛煙家は｢次はビルの前にたむろして喫煙する行為も禁止される｣と震え上がりましたが、今年（2012年）、ニューヨーク州が｢州立公園は市の取締りの対象外｣と抗議して、少し禁煙圧力を押し戻したところです。禁煙‐愛煙両陣営のせめぎ合いは屋外に舞台を移し、全米各地でこれからも続きそうです。

非禁煙10州の個別自治体対応