アメリカでは、交通事故で年間に3万7千人が死亡し(2016年)、銃関連でも3万3千人が亡くなります(2013年)。それに比べれば「広域集団感染(Outbreaks)」による食中毒の患者は多くても年間2千人足らずで、死者の数は一桁ですから、目くじらを立てて騒ぐほどの問題ではないかもしれません。 食中毒に限っても、別の記事でご案内したCDC(米国疾病予防管理局)の推計が正しくて、本当にアメリカでは1年に4800万人が食中毒を起こし3千人が死亡していたり、「31種の病原体による食中毒」に絞っても、年間939万人がを発症し、うち1千4百人が死亡したりしているなら、「広域集団感染」など氷山の一角。 そのせいかCDCは「野菜は健康に良いので(「広域集団感染」のニュースに惑わされず)食べ続けましょう。ただし、5歳以下の幼児や65歳以上の高齢者など免疫力の低い人々は注意!」などと、少しのんきなことを言っています。 ===== 有名ブランドでも安心できない ===== 確かに、食中毒の原因食品はすぐに回収されるので、汚染食品に当たる確率は、さほど高くありません。しかし、たまに原因食品が複数あり、その中の真犯人の食材が特定できない場合には、汚染ルートが判明し関連食品が市場から一掃されるまで、消費者は疑わしい食品の購入を躊躇します。 2018年の夏でしたが、その年の月に始まったロメインレタス(写真)によるO157の広域集団感染事件もそのケースで、最終的に汚染源が判明したのは8月。ロメインレタスは産地を問わず消費者の買い控えに遭って、騒ぎが収まってからもしばらくはスーパーの棚に大量に売れ残っていました。 この事件の直接の汚染源は、アリゾナ州のユマ川から引いた灌漑用水と突き止められました。問題はそのおおもとの汚染源で、近隣のウシのCAFO(Concentrated Animal Feeding Operation=集中家畜飼養場)の関与が疑われています。CAFOは多数の家畜を狭い畜舎に押し込めて飼育する通称「動物工場」で、近年は動物愛護の観点から非難する人々が増えてきていますが、加えて大量の家畜の糞尿や畜舎の排水が周辺の環境を破壊しかねない懸念もあり、厳しい管理が義務付けられています。 2018年は「広域の集団感染」による食中毒の当たり年で、ロメインレタスのO157事件のほかにも、食中毒のニュースが伝えられない月はありませんでした。5月から夏にかけてデルモンテの野菜パックとフレッシュエクスプレスの野菜パックを使ったマクドナルドのサラダが原因で、サイクロスポラという微生物による食中毒が起きました。2つの集団感染に関連があるかどうかは不明です。 アイオワ本社で中西部8州に店舗を展開するスーパー「ハイビー」の野菜パスタサラダ、ケロッグのシリアル、インディアナ本社で中西部・南部8州の多くのスーパーに卸しているケイトフーズのカットメロン、ウォルマートやフードライオンでも売られているローズエイカー・ファームの生卵(詳細は別の記事をご参照)など、日常的に私たちが安心して購入していたブランドの食品がサルモネラ菌に汚染されたのも、ショッキングな出来事でした。 ===== カット野菜の安全な食べ方 ===== 食中毒が増えている一つの大きな原因は、カット野菜やカットフルーツと、サラダなどカット果菜類の二次加工食品の増加です。カット果菜類はカット前にいったん洗浄されますが、工場で切断・包装される際に再び汚染されるリスクが高く、特に切断面から漏れ出す微量の細胞液が果菜類の表面に付着すると、病原体の温床となります。 カット後に再洗浄や消毒をするケースもあるようですが、殺菌により雑菌が極度に減ると生き残った病原体が繁殖しやすくなるなどの問題もあるようで、マルのままの果菜類に比べると、衛生面で一回り劣る食品だと認識しておく必要があります。しかし、同じ食品を食べても、食中毒を発症するのは一部の人々です。カット果菜類でも、 ❶ できるだけ賞味期限に余裕のあり見かけも新鮮な製品を選ぶ ❷ お買い物の後に寄り道せず帰宅して速やかに冷蔵庫の野菜室に貯蔵する ❸ 特に封を開けてからはなるべく早く使い切り、日が経ってしまったら加熱調理用に使う ❹その都度見た目や臭いで腐敗していないか確かめる など、日常の当り前の注意を欠かさなければ、高い確率で食中毒を回避することができるでしょう。 ===== 食中毒情報を早く知るには! ===== 広域集団食中毒の情報は、テレビほかの現地メディアに絶えず接している皆さんの耳には入ってきますが、アメリカ人並みのヒアリングがなければ、詳細は理解できません。でも、下の空欄に皆さんのEメールアドレスを入力すると、CDCが最新の食中毒情報を送ってくれます。 また、CDCのサイトで最新情報を見るならこちらのページ。下のコラムは当該ページの一部の切り抜きですが、最近の食中毒の原因食品の写真がスライドショー形式で掲載されています。具体的な内容をお知りになりたい方は、それぞれの写真をクリックしてください。 ===== 近年の広域集団感染事件 ===== 過去5年間(2014〜18年)の食中毒の広域(原則複数州)集団感染事件
===== 幼児・高齢者と妊娠中の女性は注意 ===== 有機食品は安心かというと、自然な生産工程にこだわる分、逆に病原体への警戒は甘いかもしれません。食中毒を発症する条件は、病原体の濃さと免疫力の弱さですから、ご家族に5歳以下の幼児と65歳以上の高齢者や免疫不全の方がおられたら、特にお気をつけください。 妊娠中の方がリステリアやトキソプラズマを発症すると、ご自身ばかりでなく、流産や生まれてくるお子様に障害が生じるおそれも高いので、それぞれソフトチーズや生ハム、スモークサーモンを避けたり、ユッケなど肉の生食を避けるなど特別な心構えが必要です。 本題からはそれますが、トキソプラズマは普通は感染しても発症しないか軽症で済み、世界中の3人に1人が感染していると言われるほどです。ただし、女性が妊娠中に初めて感染するとたいへんなことになります。特にネコから感染しやすい病気ですから、妊活中の方は、トキソプラズマ陰性か陽性かお調べになっておいてはいかがでしょう。 |