ESLクラスは、「英語が外国語(English as a Second Language)」の子供たちのために設けられた英語学級です。渡米直後の日本人子女のカルチャー・ショックを和らげるためにもたいへんありがたい制度ですが、ひとつ間違えると甘やかして、英語のできない帰国子女を生み出す手段になってしまいます。

 ESLクラスの位置づけは、地域によっても違いますが、時代とともに変化してきました。外国人の数がまだ少なかった頃は、全米各地でESLの先生の数が足りず、ESLクラスは一般授業の補完的役割でした。日本人子女も、渡米当初からアメリカ人の一般生徒とともに学ぶ機会があり、当時は、時とともに自然に英語が身についてきました。

 しかし、その後はメキシコ系移民の急増で外国人の子供の総数が増え、各地に独立したりっぱなESLクラスができるようになりました。そうなると、日本人子女も、外国人が隔離されたESLクラスに閉じこもり、お互い日本語で会話して過ごす日常がもう当たり前の時代です。


日本の英語教育との違い


 ESLクラスは、日本の学校の英語授業と違い文法や発音を体系的に教えるのではありません。ESLはむしろEFL…英語が母国語(English as a First Language)と呼びかえた方が説明しやすいくらいで、アメリカ人が自国の赤ちゃんに言葉を教えるように、遊びを通じて会話の意味を理解させ、真似させて話す能力を引き出す教育方針です。

 いわば幼稚園に連れ戻されるようなものですが、勉強付けの生活に耐えてきた日本人子女には結構居心地がよく、中にはリラックス・ペースにはまってしまうお子様がいます。


ESL早期脱出作戦


 ところで、ESLクラスは、英語能力の高い子から低い子までが一つクラスにゴチャマゼのいわゆる複式学級です。通知表をしっかり読まないと分かりませんが、先生が何段階にも細かく区分して成績を評価しています。成績評価が上がるにつれ、次第に多くの一般授業を受けられるようになり、2年以内にESLは卒業というのがパターンですが、ぬるま湯につかっているといつまでもESLに塩漬けになってしまいます。

 特に賢い男の子の場合は要注意です。ESLの成績評価では宿題の比重が高いのですが、概して男の子は馬鹿にしてサボる傾向があります。お子様に現地校の様子をよく聞いてあげて、悪い成績がつかなよう適切なアドバイスをしてあげてください。「楽勝だよ!! 」と言われて、単純に安心しているとたいへんなことになります。

 ご両親は、学校や先生と親しくお付き合いして、少しでも早くお子様がESLを抜け出せる手伝ってあげてください。北米では、両親が教育に積極的な家庭の子供は大事に扱ってもらえます。勇気があれば、奥様は学校のボランティアに立候補なさってはいかがでしょう?英語の勉強にもなります。

 ESLが不要なら「もうESLは結構です」という念書を書いて学校に提出する方法もあります。ただし、一度抜けたら気が変わっても戻れませんから、お子様本人も含め事前によく相談することが必要です。(少なくともケンタッキー州の場合には)外国人が、現地校編入後の2年間は成績に関係なく進級できる制度がありますが、ひょっとすると、その特例も放棄することになるのかもしれません。


日本語能力の維持も大切


 さて、英語能力の向上は重要ですが、バイリンガルに育てるには、お子様の日本語能力を維持してあげることも大切です。昔は、幼児期から小学校低学年の時期を北米で過ごした子供たちの中に、日本語が苦手という子がたくさんいました。

 最近はインターネットやテレビで日本との距離も縮まり、少し心配し過ぎかもしれませんが、英語を早く覚えてほしいからといって、お子様を無理やり日本語から遠ざけたりすると危ないかもしれません。兄弟が、英語でけんかを始めると危険な兆候と言われていますので、念のためお気をつけください。

 蛇足ついでにもう一つ。子供はひとりひとり個性も成長のスピードも違いますから、「ESL早期脱出作戦」もその後の進学計画も、お子様にストレスがかかりすぎないように気配りしてあげてください。バイリンガルになるというのは、それだけでたいへんなことです。