労働安全衛生法の一律メニュー 日本では、労働安全衛生法という法律に基づき企業の海外駐在員も1年に一度「誰彼問わず一律メニューの健診」をしなければならないことになっています。ところが、こうした日系企業の手厚い健康管理は、北米では決してほめられません。 例えば、日本の政令で義務化されている胸部X線検査と心電図検査や聴力検査は、主治医が必要と認めない限り、北米では健診に含まれません。医師が、不要な検査を受けさせて医療保険を請求すると、保険会社からクレームが来ます。 日本の企業が行う定期健診は、(NHKの番組「プロジェクトX」でも採り上げられたことがありますが)医療後進地域の救済のために1959年に長野県で始まった集団検診事業が発展、その後1972年に法制化されました。検査項目は「集団」の健康レベルを向上させるために、個人差を敢えて無視して一律に決められた経緯です。 私も例外ではありませんが、日本人には、毎年、他の人たちと同じ検査をしないことには(何かの病気で)手遅れになるかもしれないとか、逆に、毎年他人と同じ検査をしていれば安心という行き過ぎた思い込みがあるようです。 「人間ドック」は、定期健診のように法律で定められたものではありませんが、日系企業の現地法人では、人事や総務の担当の方が、駐在員やご家族が日本並みの検査を毎年受けられるよう苦労して手配なさっておられるのです。大企業の中には、進出時から現地医療機関に事情を話して無理をお願いしているケースがありますが、それができずに最寄りの大都市の日系クリニックに出かけてもらったり、一時帰国を利用して日本で健診を受けもらっている企業も少なくありません。 北米流定期健診 私は、若干ながら高血圧と高コレステロールで、半年に一度のペースで健診を受けています。通常は、わずかに触診や問診と血液や尿の検査をするだけですから、最初のうちは不安に感じていましたが、そのうちに北米流の健診の良さが分かるようになってきました。 つまり、人それぞれの体質により必要な検査を適切な間隔で受けるように主治医がスケジュールするのが北米流の健診です。人間ドックの全ての検査メニューを毎年受けることはできませんが、逆に人間ドックの検査メニューにない検査を受けることもできるわけです。 主治医の指示がなくても、自分で何となく心配で受けたい検査があれば、主治医に相談しましょう。私の場合は、胃のレントゲン検査を受けたいと言って、それより胃カメラで検査をした方がよいと勧められたことがありました(胃のレントゲン検査では発見できない胃ガンもありますし、X線の被爆で胃ガンの発生率が上がるという説もあります)。 そもそも人間ドックの標準メニューは過去10年〜20年の間、ほとんど変わっていないのではありませんか?皆さんも健康上で何か心配事があれば、CTでもMRIでも、最新の医療機器を使って検査してもらうよう北米の主治医に頼んでみてはいかがでしょう。 会社の保険や社内規定によって違うかもしれませんが、アメリカ駐在期間中に検査すれば、帰国後に同じ検査をするよりずっと安く済むかもしれませんよ。 企業の人間ドックを受けている駐在員やご家族の皆さんは、わざわざ二度手間で北米の主治医の定期健診を受けたりしないことでしょうが、主治医をお持ちの皆さんは、人間ドックの結果を主治医に持参して、必ずアドバイスを受けましょう。 |