日米予防接種の違い ★各国のワクチン接種ルール ★三種と新三種混合 ★ポリオ(小児マヒ) ★ヒブ、肺炎球菌、ヒトパピローマ ★BCGとTBテスト(ツベルクリン反応) ★定期接種の拒否権 ★成人の予防接種 お子様を現地校に編入なさるには、必ず追加の予防接種が必要になりますね。アメリカには、日本で実施されていない多数の予防接種があります。逆に言えば、日本は、とんでもない「ワクチン後進国」です。 2010年12月 6日に放送されたNHKクローズアップ現代「ワクチンが打てない〜遅れる日本の予防接種〜」の記事と動画をごらんください。ほかに横浜市衛生研究所の「アメリカ合衆国のこどもの定期予防接種について」の記事もたいへん参考になります。 とはいえ、日本の予防接種環境も、急速に改善しています。ただし、このことは、この数年間に生まれた子供やこれから生まれる子供たちは、兄弟でも、受けた予防接種の数に違いが生じるということです。ご両親は、その点をよく理解しておくいてください。 よく「渡米前にお子様にどんな予防接種を受けさせたらよいか?」というご質問をいただきますが、日本では追加接種をせずに、渡米後に接種を受ける方が合理的です。 各国のワクチン接種ルール(○強制△任意Xなし)
●日米で定期接種●日米共通化●日本は任意接種●日本は未実施●米国なし●日米で任意 日本で任意接種できるのは、ほかにワイル氏病、コレラ、狂犬病、黄熱病のワクチン 三種混合と新三種混合 DTaPは日本の三種混合ワクチン、MMRは新三種混合ワクチンに相当しますが、新三種混合は、日本ではおたふく風邪ワクチンの副作用で無菌性髄膜炎が多発したために1993年に廃止され、2006年にはしかと風疹の二種混合ワクチンとして再開されました。アメリカでは三種の接種が継続され、現在では改良されたMMRが使われています。 おたふく風邪は、妊婦が感染すると流産することもあるこわい病気です。日本では、訴訟で国が負けたためにワクチンの定期接種は再開しにくいのでしょうが、任意接種は世界的に少数派です。 ポリオ(小児マヒ) ポリオのワクチンには生ワクチンと不活化ワクチンがあります。日本で使っている生ワクチンとは弱毒性の生きたウィルスを飲むワクチンで、安くて幼児に投与しやすいのはいいのですが、副作用でポリオを発症してしまうおそれがあります。特に免疫異常がある人には危険です。 アメリカでは2000年に不活化ワクチンに切り替え、先進国が次々に追随する中で日本だけが生ワクチンの接種を長く続けていましたが、2012年9月にようやく切り替わりました。日本では、それまでの三種混合ワクチンと併せ四種混合(DPT-IPV)ワクチンとして、生後3か月から1年あまりの間に4回受けることになっています。 ヒブ、肺炎球菌、ヒトパピローマ 日本がワクチン後進国となったのは、人手不足で厚生労働省の安全確認が間に合わないことも大きな要因のようです。インフルエンザ菌 b型(ヒブ)というのは小児細菌性髄膜炎の最大の原因で、アメリカでは1980〜90年代にかけて有効なヒブワクチンが実用化され、髄膜炎は今では珍しい病気になっています。 しかし、日本では、ヒブワクチンが2008年まで認可されませんでした。それでも、任意接種では費用が自己負担ですから、誰でも気軽に受けられるわけではありません。そこで、ヒブと、やはり髄膜炎の原因となる肺炎球菌と、子宮頸がんの原因となるヒトパピローマ・ウィルス(HPV)の3つのワクチンを定期接種化する方向で検討が進められてきましたが、国と自治体の費用分担で難航して実施時期が遅れ、2013年4月からやっと無料化されることになりました。 また、日本の肺炎球菌ワクチンはPCV7というワクチンのようですが、アメリカなどで現在使われているPCV13に比べると、予防できるウィルスの種類が限られています(英語資料⇒CDC)。欧米先進諸国に赴任する駐在員の子供たちは、少なくとも感染症の予防については、恵まれた環境にいるといえましょう。 HPVワクチンは、日本では皆さんご存じのようにワクチン接種後に後遺症を訴える少女が続出し、厚生労働省は積極的な接種勧奨を差し控えるよう自治体向けに勧告しました。しかし、国際的にはワクチンといわゆる後遺症の因果関係は否定されており、WHOは、日本が根拠のない予防接種制限により、若い女性を癌リスクに晒していると非難しています。欧米諸国の国民世論には、最大多数の最大幸福のためには、一部少数の悲劇は受け入れるべきだとの考え方があるような気がします。 BCGとTBテスト(ツベルクリン反応) 逆に、日本で強制しているのにアメリカでは全く実施していない予防接種もあります。日本脳炎は、名前の通り日本や東南アジアの地域性の高い感染症ですから当然ですが、結核予防のBCG接種と、抗体の有無を確認するTBテスト(ツベルクリン反応)については日米の医療当局の考え方が正反対で、間に立った駐在員の子どもたちがとんだ迷惑をこうむっています。 日本では、結核に対する免疫を得られるようBCGを接種しツベルクリン反応が陽性になれば「めでたしめでたし」ですが、アメリカでは、TBテスト(ツベルクリン反応)が陽性だったら結核に感染しているというので「さあっ、たいへん」…直ちに薬を飲んで治療に努めなさいということになります。お子様の現地校編入時に医者に診断書を書いてもらうときには、日本の医療事情をよく説明して、できれば「治療不要・TBテストも今後不要」と書き足してもらいましょう。 この違いは、BCGの予防効果について調査結果が各国マチマチだったために起きた出来事のようで、日本のほかフランスや韓国、ロシア、インドなども定期接種。ちなみに、WHOは結核が蔓延する国で生まれた子どもには接種するように勧めているそうです。 定期接種の拒否権 定期接種は無料といえば無料ですが、アメリカの医療保険は民間保険で、定期接種の費用は全額保険でカバーするよう義務付けられているだけです。オバマ大統領の医療保険改革に反対する人たちが大勢いるくらいですから、やみくもに定期接種を増やせば医療保険が値上がりすると反対する人もいます。 アレルギーのひどい子など体質的にワクチンの副作用が懸念される場合には、もちろん接種をパスすることができます。また、ウェストバージニアとミシシッピーの両州を除く全米で宗教上の理由で接種を拒否する権利が認められていて、うち20州では宗教と別の理由でもOK…さすが自由の国アメリカですが、接種拒否者が多い地域で病気の流行が始まると、一方では心配している人たちもいます。 成人の予防接種 予防接種の中には、時と共に免疫がなくなってしまうものもあります。三種混合は、生後2〜3ヶ月から1歳半頃に4回接種する点は日米同じですが、日本は、その後11〜12歳頃に百日咳ワクチンを除く二種を接種するだけ。アメリカでは、4〜6歳と11〜12歳の2回三種を受けて、さらに大人になっても10年に一度、百日咳ワクチンを除く二種を接種するよう勧められています。 私たちも、グリーンカード(永住権)の申請をするときに受けました。医療保険を使えば無料で接種してもらえますが、破傷風もジフテリアも日米を往復するだけならリスクは低そうなので、油断してその後は受けていません。しかし、特に破傷風については、身体が弓なりにそって硬直し50%が死に至る世にも恐ろしい病気のようですから、流行国に行く機会のある人は必ず接種しておかなければいけません。
高齢者の予防接種 自分が老人とは認めたくないのですが、帯状疱疹(Shingles=Herpes Zoster)の予防接種は60歳からできるので、そろそろ受けに行こうかと思っています…保険対象外。65歳以上の高齢者に接種される肺炎球菌ワクチンは、子供に対して接種するのとは違うPPSVVという名前のワクチンです。免疫不全がある子には、2歳からPCV13と並行して接種されるものです。 |